俺様CEOの子どもを出産したのは極秘です


 獅童を抱える桃花に向ける視線は、見る者全てを凍らせるような類のものだ。

「総悟さん……」

 湿気を含んだ風が、総悟と桃花の間に吹く。
 じっとりと手に汗をかいてきた。
 桃花は、獅童のことを滑り落とさないように抱え直すと、総悟と対峙することにした。
 相手の視線に貫かれると、そのまま倒れてしまいそうだったが、なんとか耐える。
 気合を入れるべく、一度深呼吸をすると、丹田に力を込めた。
 そうして、桃花は総悟へときっぱりと返す。

「どうしてこちらにいらっしゃるのでしょうか?」

「そんなの、君が俺からいなくなるかもしれないって時に、社長室で黙って待っていられるわけないでしょう?」

「ちゃんと言いましたよね、必ず戻ります、と。信用なさってくださらないのですか?」

 すると、総悟が自嘲する。

「信用していないわけじゃない。だけど、二年前みたいに君に置いて行かれるのは嫌だったんだ」

 桃花はゴクリと唾を呑み込んだ。

「二年前に逃げたのは私が悪かったと思っています。どうやったら、信用を取り戻せますか?」

「今も言ったけど、信用していないわけじゃない。だけど、良かったら、その子どもが誰の子か教えてほしい。今さっき俺が推察した通り、君の子どもなのかな?」

「個人情報を話す義務はないかと……」

「社員の家族の状況を、社長の俺が把握するのは、不自然でもパワハラでも何でもないよね? 給与にだって影響してくるわけだし」

 桃花は言葉に窮した。
 心臓が早鐘のように忙しなく鳴り響く。

(曖昧な返答じゃあ、総悟さんは納得してくれない)

 適当に甥っ子だと返答しても良かったが、相手の信用を取り戻すためにも、正直に返答するべきだ。
 そうして、ぐっとお腹の奥底に力を入れると、桃花は力強く返した。


「そうです、私の子どもです」


「ふうん、そう。それは見れば分かるよ。友達の子どものために、わざわざ仕事を休んだりはしないだろうしね。しばらく君とその子のやり取りだって見ていたからね。それで? その子の父親は何しているの? 恋人はいないって言ってたでしょう、嘘だったの?」

「私に今現在恋人はいません。この子の父親に関しては……現在は赤の他人なので、伝えることはできません」

 総悟の片眉がピクリと跳ね上がった。

「赤の他人っていうのは、その子の父親のこと? この二年の間に付き合って別れた男の子どもなの?」

「……付き合っていた相手ではありません」

 嘘は伝えていない。

(だって、総悟さんとは恋人だった期間さえもなかったわけだし……)

 強いて言うならば、上司と部下という間柄だったが、わざわざそこまで教えてやる義理はない。

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