俺様CEOの子どもを出産したのは極秘です
3 頼りになる上司
副社長である二階堂総悟の専属秘書を務めるようになって数日が経った。
だいぶ通い慣れてきた副社長室にて、部屋の主である二階堂副社長は、黒い革椅子に深く座り込んで惰眠を貪っている。
そんな彼に向かって、桃花は両手を腰に当てて仁王立ちをしながら檄を飛ばした。
「副社長、取引先との会合の時間です!!」
二階堂総悟がうっすらと瞼を持ち上げると、綺麗な翡翠の瞳をしばたかせる。背筋を大きく伸ばすと欠伸をしながら喋りはじめた。
「ふわああ、せっかく良い天気なんだし、もう少し眠ってたかったな」
桃花の額にピキリと青筋が浮かんだ。
「……他の社員は必死に働いている時間なんです、しっかりなさってください!」
「はあい、俺の専属秘書さんがそんな風に言うんだったら仕方ないね……」
そうして、二階堂総悟は起き抜けの犬のように、ゆっくりと立ち上がる。
肩を鳴らしながら、活動する準備を始め出した。
とはいえ、ここ数日だけだが彼と一緒に過ごしてきて気づいたことがある。
(噂ではかなり不真面目な人物という話だったけれど……)
正直なところ、二階堂総悟は他の社員たちの数倍以上の仕事量を半分の時間でこなしている。
そうして、余った時間に少しだけ休息をとっているというのが実態だった。
(就業時間内にずっと働き続けろといっても人間だから無理はあるだろうし……)
桃花としても二階堂総悟に対して何でもかんでも怒って良い問題ではないなと少々悩ましく感じていた。
「あれ? 何時からだっけ?」
いまだ寝ぼけ眼の二階堂総悟が背伸びをしながら時間を問いただしてきた。
桃花は時計を見た瞬間、ハッとする。
「もう十三時五十五分です! 会議は十四時からなのに、このままじゃ間に合わない……! 先に行って挨拶だけでも済ませてきますから!」
「ん? ああ、ありがとうね」
そうして、ひらひたと掌を振る彼のことを尻目に、桃花は一目散に部屋を出た。フロア中央にあるエレベーターに乗って、正面玄関へと向かう。
(先に竹芝部長が対応してくださっている手筈になっている)
そう思って玄関に辿り着くと、竹芝部長が玄関前でキョロキョロしているところだった。
「竹芝部長、取引先の社長さん達はどうなさっているのでしょうか?」
桃花が声をかけると、竹芝部長が困ったような笑みを浮かべながら、こちらを振り向いた。
「ああ、梅小路さん。それがですね、受付に聞いたら、我々を待たずに社内に入ってしまったそうなんですよ。なので、僕は一応ここに待機しているんです。社内のコンビニエンスストアに立ち寄ったのかお手洗いに向かわれたのかは分からないのですが……」
「そうなんですね。分かりました。二階堂副社長も直にこちらにいらっしゃると思いますので、私は先方を探してまいります」
そうして、桃花は踵を返すと、社内の中を探索することにした。