俺様CEOの子どもを出産したのは極秘です
26 待ち構える総悟
総悟からプロポーズされた翌朝。
だいぶ朝陽が顔を出すのも早くなった。
マンションのカーテンの隙間から差し込む日差しで、桃花はベッドの上でゆっくりと目を覚ます。
すぐに昨晩の出来事を思い出して憂鬱な気持ちになる。
あれから電話が掛かってくることはなかったけれど……
(今から出社して顔を合わせるの、だいぶ気まずいわね)
隣でスヤスヤと眠っている獅童のことを、桃花は黙って眺める。
(獅童にとって最善の選択をしてあげたい)
昔は自分が幸せになりたいという気持ちが強かったが、我が子を産んでから少々考えが変わっており、子どもの幸せを最優先に考えるようになっていたのだ。
(総悟さんのことが好きだっていう気持ちだけじゃ、結婚には踏み切れない)
そんなことを考えて、やや憂鬱な気持ちのまま、朝からスマホの画面をだらだら触っていると……
ポン。
SMSメールの通知が入ってきた。
「総悟さん……!」
あれだけ自分から拒否していたくせに、すぐに指先が通知をタップする。
喜々として開いたけれど、内容はとても事務的なものだった。
『今日予定されていた役員会は次週に延期となった。専属秘書の業務は不要のため、本日は有休扱いで休んでもらって構わない』
急遽休みになって嬉しい反面、寂しさが去来してきて、自分でも少々矛盾している。
(元々、私がいなくても有能な人だから……いいえ、総悟さんと顔を合わせないですむから、良かったと思うべきね)
桃花はなんとなくモヤモヤした気持ちを抱えながら、眠る獅童の頭をそっと撫でる。
我が子の髪は柔らかくて気持ちが良い。小さな掌を大人の桃花が握ると、弾力のある肌がもっちりと吸い付いてくる。
触れているだけで、重苦しく感じていた気持ちが少しずつ解消していくようだ。
(子どものために夫婦になることに対して意固地になっているのは私だけ?)
獅童のためを思うなら、父親はいた方が良いに決まっている。
しかも、今をときめく二階堂商事の社長だ。結婚すれば、金銭的に困ることはないし、高い水準の教育だって提供してあげられる。
けれども、桃花としては、子どもは物質的に満たされるだけではダメだと思っている。
(両親同士が愛し合っているのが大事だわ。だけど、それ以上に大切なのは、父親である総悟さんが獅童のことを愛せるかどうか……)
桃花としては、総悟から桃花が愛されるかどうかよりも、総悟が獅童のことを愛してくれるかどうかの方が気になっていた。
「総悟さんは獅童のことを愛してくれる?」
総悟は子ども自体が嫌いなわけではなさそうだった。
昨日の態度だけ見たら問題ないようにも見える。
けれども、あれだけ子どもが必要ないと話していたのだ。