俺様CEOの子どもを出産したのは極秘です
どんな人物かは調べ上げているし、海外の人物なので日本ではかなり目立つはずだ。
(エドワルド・パシート社長、外資系企業で、車だけでなく様々な事業を立ち上げているスペイン出身の凄腕の人物)
ただし日本語は嗜んでいないそうで、第二言語である英語での会話が主だという。
基本的に通訳がそばにいてくれているので、会談中に困ったりはしないという話だった。
(ひとまず竹芝部長が話していたように、フロアの一階にあるコンビニエンスストアを覗くことにしましょう)
就業時間内だからか立ち寄るスタッフの数は少ない。
店内に入って見渡したが、姿は見当たらなかった。
近くにある男子トイレの前で張るわけにはいかず、しばらく傍をキョロキョロしたが、やはりいなかった。
(もしかして別のフロアに行ってしまったの……?)
桃花が廊下をキョロキョロしていると、ちょうどエレベーターホールの手間の開けた場所に、金髪の壮年の男が立っている。二階堂副社長ぐらい長身でがっちりした身体つきだが、縦長の顔には人が良さそうな笑顔が浮かんでいた。
「すみません、エドワルド社長でしょうか?」
Helloなどの簡単な日常英会話ぐらいしか話せる自信がなかったので、敢えて日本語で話しかけた。
すると、エドワルド社長と思しき人物が喋りはじめる。
「Hello! My car was delayed. Could you help me?」
相手は簡単な中学英語程度の会話をしてくれているようなのだが、突然海外の人物と話すことになってしまって、桃花の動揺は凄まじいものだった。
(通訳の人とはぐれたの?)
どうにかして会話しようと思うが、緊張してうまく喋ることが出来ない。
「I have an appointment with Sogo Nikaido at 2 o’clock. Where is the vice president’s office?」
桃花は脳内で日本語訳を試みる。
(ええっと、「二時に約束してる、副社長室はどこ」ってことよね……?)
話す速度が速いので、なんとなく自信はないが、桃花は手招きすることにした。
「エドワルド社長、どうぞこちらに……」
だがしかし、エドワルド社長はそこから動かない。
(どうしたのかしら?)
ふと、桃花が振り返ろうとしたところ、彼の身体がぐらりと傾ぐではないか。
「あ、危ない!」
桃花は咄嗟に身体を動かしていた。倒れそうなエドワルド社長の二の腕を掴んでなんとかその場を凌ごうとする。
「立てそうですか……?」
しかしながら、入社して以来、具合の悪い社員の対応をしたこともなければ、外国人の対応だってしたことがないのだ。
桃花の胸の内が不安と焦燥でいっぱいになる。
長身でガタイのよいエドワルド社長のことを、華奢な桃花だけで支えるのはかなり難しい。
どうにかしようと必死に支えていたけれど、さすがに身体が重すぎる。
(どうしよう、このままじゃ……)
桃花がエドワルド社長ごと一緒に床に倒れてしまうのを覚悟した時。