俺様CEOの子どもを出産したのは極秘です
(総悟さんの調子が良いのはいいけれど、私の調子が狂っちゃうわ)
そうして、彼がこちらの緊張を解きほぐすそうな満面の笑みを見せてくる。
「これから先、色んな場所に連れて行き甲斐があるなって。どんな場所でも喜んでもらえそう」
「そんな……色んな場所なんて……」
「君たちが一緒なら、俺もどんな場所でも幸せだ」
……君たち。
三人で色んな場所に遊びに行く想像をついついしてしまった。
総悟が獅童と楽しそうに遊ぶ姿を考えたら、なんだか幸せな気持ちになってくる。
(いけない、総悟さんのペースに乗せられてしまっている)
桃花は心の中で自分に喝を入れた。
「桃花ちゃん、ここだよ」
そうして、総悟から案内されたのは、屋敷の奥まった一角にある部屋だった。
入り口の障子の前には、着物を着た使用人らしき人が控えていた。老年の男性のようだが、眼鏡に柔和な表情を浮かべていて、なんとなく竹芝のことを思い出させた。
「ああ、坊ちゃん、会長がお待ちですよ」
「竹芝、もう俺も三十近いんだからさ、坊ちゃんは勘弁してよね」
総悟が大仰に肩をすくめて溜息を吐いた。
(竹芝……)
桃花が「あれ?」と思っていると、総悟が返してくれた。
「ああ、桃花ちゃんの知ってる竹芝の父親だよ。親父の昔からの友人兼腹心なんだ」
「ええっ……!?」
「まま、わあ、あ!」
桃花が心の奥底から驚くと、抱っこされていた獅童がきゃっきゃっとはしゃいだ。
そんな中、老年の竹芝が桃花に向かって切々と訴えてくる。
「梅小路桃花さまですね。竹芝と申します。以後、お見知りおきを! 息子と義娘から伺っております。とても優しい女性だと……! わがまま放題の坊ちゃまの奥様になってくださって、竹芝は感動でございます……!」
おいおいとものすごい勢いで言われてしまって、桃花は少しだけ後ずさる。
(この反応は竹芝部長のお父様だわ……!)
間違いなく遺伝のなせる業だと感じさせてきた。
すると、総悟が口を尖らせて反発しはじめる。
「わがまま放題ってなんだよ、もう。桃花ちゃんにおかしなことは言わないでよね!」
「坊ちゃま、そういうところでございます」
「そういうところって何さ」
「さて、梅小路様、会長がお待ちです」
総悟の反応は完全にスルーして、竹芝は笑顔のままスラリと障子を開いてくれた。
桃花の心の準備はまだ全然できていない。
(今思い出したけど、私デニムだわ。カジュアル過ぎて失礼なんじゃ……)
だが、そんなことを考える暇はなかった。
障子の向こうには畳の部屋が広がっている。
上座で正座して構えていたのは、もちろん……