俺様CEOの子どもを出産したのは極秘です



「違う、違う、違うんです」

「桃花ちゃん?」

 声を荒げる桃花のことを、総悟が心配そうにのぞき込んでくる。

「私は……」

 ……思考に逃げていたら楽だ。
 悩みを作って抱え込んで、ああしたらこうしたらって悩んでさえいれば……ある意味で空想の世界にずっと浸っていられるから。
 だけど、結局悩んで行動しないのなら、それは逃げでしかない。

 ああだったら、こうだったら……

 獅童を愛せないなら、そんな父親は欲しくない。
 そうやって、総悟自身のことを否定して。
 全部を相手のせいにして。
 そうしたら楽だったから。
 相手に対して、現実逃避のないものねだりをして、相手のことを丸ごと受け入れる覚悟が足りなかっただけだ。

「私の方こそ総悟さんに……」 

 今だって、総悟の優しさに甘えようとした。
 自分は本心を曝け出してなんかいないくせに……
 相手からだけ、相手の気持ちだけを引き出そうとしている。
 自分だけが傷つかないようにして、愛されようだとか、甘いことを考えてしまっている。

「色んなことを抱えていた貴方から目を背けて逃げ出した私が……私の方こそ総悟さんに信用されるはずなんてなくて……」

 全部、総悟のせいにすれば楽だった。
 全てを彼のせいにして逃げ出したら楽で楽で仕方がなかった。
 だって、それなら、総悟から愛されなかったとしても良かったから。
 一緒に過ごして醜い自分の姿を、相手に見られずに済むから……
 相手から逃げて姿を隠しさえすれば、彼の目には綺麗なままでいられる。
 仮初の自分かもしれないけれど……
 総悟にとって優しい自分のままでいられたら……
 そうしたら、幻想の私のことを一生愛し続けてくれるかもしれないから。

「二年前、総悟さんに愛されていないって思いたくなくて、裏切られるのが怖くて……いいえ、自分が傷つきたくなくて、私は獅童のことを盾にして、貴方の元から逃げ出したんです。そのくせ、獅童の母親になったんだから、今まで以上にちゃんとしなきゃって、だんだん自分の本心が分からなくなっていって……」

「桃花」

「私が……私なんかが……貴方に愛される価値なんか……なくて……」

 気づいたら涙がボロボロと頬を伝って流れだした。


「貴方を信じると言った、自分自身の言葉が、信じられなくて……」


 涙を止めようとしたけれど、泣き止もうとしても涙が止まってはくれない。

(私、まるで子どもだわ)

 総悟もきっと桃花のことを見て呆れてしまっているに違いない。

 その時。

「あ……」

 彼の手が彼女の背に回されたかと思った時には……

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