俺様CEOの子どもを出産したのは極秘です
そうして、会長が悲壮感を滲ませながら話を続ける。
「十二年前……総悟はすごく気落ちしていた。あの子の姉だけじゃなく、総悟までいなくなるんじゃないかと、私はずっと心配していたんだ」
ちょうど桃花が両親の交通事故で落ち込んでいた頃、総悟も何かの事情で落ち込んでいたらしい。
「だけどね、桃花さん、両親が事故に遭って大変だったはずの君と約束したから、総悟は前を向こうと思ってくれたみたいなんだ」
「私が総悟さんと約束……ですか?」
桃花の瞳が揺れ動く。
十二年前の約束。
『生まれてこなければ良かった人間なんて、この世にいるはずがない』
何かが頭の中で閃くけれど、どうしても靄がかかったようで思い出すことができない。
「『小さかったし、両親の事故のことで大変だったから、あの子はもしかしたら忘れてるかもしれないけど』とも、総悟はよく話していたよ」
「私はやっぱり……私の両親の事故が起きた頃に、総悟さんや会長と会ったことがあるんですか?」
「そうだね。だけど、総悟から話を聞いた方が良いだろう。今の話だって喋りすぎなぐらいだ」
二階堂会長が穏やかに微笑んだ後、桃花に向かって深々と礼をしてきた。
「桃花さん、総悟を生かしてくれただけでもありがたい。しかも、もう自分の孫は一生見れないと思っていたのに、こんなに可愛い獅童まで見せてくれてありがとう。総悟のことをよろしく頼んだよ」
相手が心底感謝しているというのが伝わってきて、桃花の心拍数が勝手に上がっていくと同時に、会長に頭を下げさせてしまっていることに慌てふためいてしまう。
「会長、そんな、どうぞ顔を上げてください。こちらこそ、よろしくお願いします」
(まだ総悟が獅童のことをちゃんと好きになってくれるかは分からない。だけど、会長は獅童の祖父になるから、今の返事でおかしくはないはず)
ちょうど、その時、少し離れた先にいた京香が大きな声を上げた。
「ええっ、嵯峨野くん、会社に納品しないって言ってるの?」
「京香、声がでかいですよ」
妻のことを竹芝副社長が宥めはじめる。
「だってだって、なんでそんなに意地悪するのよ! いっつも総悟くんに嫌がらせばっかりして!」
「落ち着きなさい、京香」
そんな竹芝夫婦を尻目に総悟がぼやいた。
「株の動きも最近おかしいし、嵯峨野が何か企んでるのかな」
すると、二階堂会長が総悟を振り向くと厳しい口調で告げる。
「お前に二階堂商事を任せてある。経営に関して私はもうあまり口を挟むつもりはないが……嵯峨野が妙な動きをしているようだ」