俺様CEOの子どもを出産したのは極秘です
「ええ、そうですね。愛していた……というよりも、今も現在進行形で愛しています。けれども……」
愛する男性の話をしているというのに、どうしてだか阪子の表情が硬いままだ。
「交際相手に頼まれて、二階堂社長の元で働くようになりました。最初は情報を横流しにするだけだったのですが、要求はどんどんエスカレートしていって、『二階堂社長と寝ても良い』だとか、そんなことを言いはじめたのです」
「え?」
話だけで判断するならば、阪子の交際相手だという男は、阪子の好意を利用しているだけに過ぎないということだろう。
「『そんなことは出来ない』と伝えると、交際相手からは『お前は役に立たない』と罵られました。そうこうしていたら、二階堂社長に情報を外部に漏洩している事実に気付かれてしまい……結局解雇されることになりました。交際相手からは『役に立たない女は必要ない』と言われてしまい、私は捨てられてしまいました」
阪子の沈痛な面持ちを見ていると、桃花の胸がぎゅっと苦しくなる。
「そして、彼と別れてから私は……」
阪子がそっと自身の腹部を撫でた。
(まさか……)
察するに、阪子は交際相手だった男性の子どもを妊娠したが、音信普通になってしまった。
だとすれば、阪子が妊娠しているとして、父親不在の中の出産になるだろう。
総悟に何も言えないまま獅童を産んだ過去の自分の姿と、今の阪子の境遇とが重なって見える。
「その男性のお子さんを……?」
だが、返ってきたのは予想外の発言だった。
「いいえ、妊娠そのものが嘘……だったんです」
「え?」
阪子の瞳は真っ赤になっていた。
「彼の会社からは出入り禁止を言い渡されてしまっていて近づくことができません。けれども、二階堂商事と彼の会社は取引をしていました。だから、二階堂社長の子どもを妊娠したと嘘を吐けば、彼に近づけると思ったのです」
そうして、彼女は瞳に涙を溜めたまま俯くと、両手でスカートをぎゅっと握りしめる。
「……嘘を吐いてご迷惑をおかけしました」
「謝罪は私ではなく二階堂社長にお願いしたします」
桃花が時計をチラリと見やれば、もう既に七時近くになっていた。
日照時間は伸びてきているが、今日は曇り空でもあるからから、すっかり薄暗くなってしまっている。
桃花が顔を上げると、阪子が憔悴しきった瞳でじっとこちらを見つめてきていることに気付く。
(なんだろう……)
桃花は何となくだが居心地の悪さを感じてしまった。
「梅小路さん、貴女はどんな時でも毅然としていらっしゃるんですね。十二年前の事故の時もそうでした」
「……え?」