俺様CEOの子どもを出産したのは極秘です


「奔放な母親は総悟の育児を放棄して、嗣子に預けてどこかに行ってしまった」

 嵯峨野は自身の身体をかき抱く。

「嗣子は可哀そうな女性だった。母親不在で父親多忙な中、嗣子は総悟の世話で毎日忙しくしていた。大変な毎日を送っていたけれど、彼女はいつだって成績優秀で、僕に優しかった。告白したら『私も武雄さんが好きよ』と返してくれて、僕たちは付き合うことになった。だけど、いつだって総悟が邪魔をしてきたんだ」

「…………」

「総悟の具合が悪いと、嗣子は僕よりも総悟との時間を優先した。総悟は体調が良い時も嗣子にワガママばっかり言って困らせてきて……僕はワガママな総悟が……僕と嗣子の時間を奪ってくる総悟が、当時から憎くて仕方なかったよ」

 話を聞くに、嵯峨野はかなり自己中心的な人物である印象を受けた。

(恋人が病弱な弟の看病に向かうのに嫉妬するなんて、なんて心の狭い男なの)

 なんとなくざわざわして、桃花の心中は落ち着かない。

「僕たちが大学生になっても同じような日々が続いた。総悟が小学校に通っている間、僕は嗣子とよく語らっていたよ。僕と嗣子は愛し合っていた。そうこうしていたら、総悟の容態があまり良くないと、ますます僕たちの時間は減ってしまった。総悟の治療が終了する目途が経ったら結婚したいと嗣子は話してくれていたんだ。その後、卒業して二階堂商事に入って、嗣子と僕は婚約関係になった」

 すると、嵯峨野の顔が大袈裟に歪んだ。

「僕は嗣子との結婚を楽しみにしていたよ。なのに……」

 彼は涙を流し始めた。
 しばらく様子を見るに、かなり情緒不安定なようだ。

「嗣子は総悟の治療のためにドイツにしばらく滞在することになった。治療は数か月単位で終了して、いよいよ総悟と嗣子は帰国することになった。だけど、ある時、突然電話がかかってきた」

 それから嵯峨野がだんまりになる。
 どうやら先を促さないと続けてくれないようだ。

「……どんな、電話だったんですか?」

 嵯峨野がカッと瞳を見開いて、桃花のことを睨みつけるように見つめてきた。
 びくりと体が反応したが、隙を見せてはいけない。
 ぎゅっと全身に力を入れて耐え忍ぶ。

「そんなの決まっているだろう? 嗣子が事故に遭ったという電話だよ! だけど、嗣子は軽傷だったという。なのに、どうしてだか俺が駆けつけた時には、嗣子は死んでしまっていたんだ。嗣子と一緒にいたはずの総悟は待合室で呆然としていたけれど、腕に怪我を負った程度で済んでいた。死んだ理由が分からない。総悟は黙っているだけで役に立たない」

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