俺様CEOの子どもを出産したのは極秘です
嵯峨野はまるで演説のように語り続ける。
「現場にいたのに理由が分からないはずがないだろう? 待合室で総悟を責めていたら、お前が割り込んできて、会長が現れて事情を聞くことが出来なくなった」
(その場面は……)
桃花の脳裏に何かが閃く。
(お母さんたちが死んだときの待合室。一緒にいた綺麗な顔立ちの男子高校生……?)
両親死亡のショックが強くて記憶が曖昧だったが、男子高校生がいた気がする。
もしかして、あれが総悟だったのか?
「どうしてだろう、二階堂会長に尋ねても真相は教えてはくれない。だから、俺は調べたんだ。嗣子がどんな状況に置かれていたのか? 慣れない海外生活で総悟の世話にかかりきりだったんだ。俺はドイツまで尋ねたよ。彼女の友人たちに聞いたら、当時の彼女はずっと体調が良くなかったらしい。だけど、それが直接の原因ではなかったんだ。さあ、なんだと思う、梅小路さん?」
だが、桃花は何も答えなかった。というよりも、答えたところで、嵯峨野は自分の話を続けるだろう。
「……どうやら嗣子は事故の後、大量出血が原因で死んだらしいんだ。きっと本当は軽傷じゃなかったんだよ」
そうして、再び嵯峨野武雄が、大仰に手を振り仰いだ。
「そう! 総悟が嗣子の異変に気づけなかったせいで死んでしまったんだ! 俺の愛する嗣子は……総悟のせいで!」
桃花の背筋にゾクリとしたものが走る。
(何なの、この人……)
確かに二階堂嗣子と婚約者同士だったのかもしれない。
総悟が嗣子の異変に気づけなかったのかもしれない。
けれども、現場に居合わせたわけでもないのに、死因を全て総悟のせいにするのは、おかしいのではないだろうか?
あまりにも論理が飛躍しすぎていて、桃花は困惑してしまう。
「だから、あの男は……総悟は幸せになってはいけないんだ! 僕から幸せを奪った総悟が、幸せになっていいはずがないんだよ!」
すると、嵯峨野が桃花をソファの上に突き飛ばした。
「きゃっ……! 嵯峨野さん、何を……!」
「ここなら邪魔は入らない……あいつの大事なものをとことんまで踏みにじってやろう……!」
彼がスーツのジャケットを脱ぎ始めると、ネクタイに手を掛けた。
「やめてください、何をするつもりなんですか!? 子どもが近くで寝ているのに……!」
「だからこそだよ、あいつの大事なものは全て傷つけてしまいたい……父親以外の男に母親が凌辱される姿を見せて、その子も傷ついてしまえば良いんだ……!」
「何を言ってるんですか!?」
嵯峨野がすぐ近くまで迫ってきている。
桃花の背筋を恐怖が這い上がってきた。
(どうしよう、どうにかしなきゃ……!)
桃花は瞼をギュッと瞑ると、心の中で愛しい人の名を読んだ。
(総悟さん……!)