俺様CEOの子どもを出産したのは極秘です
「獅童! 獅童が……!」
「桃花ちゃん、大丈夫だ」
総悟が桃花を脇に避難させると、炎に撒かれかけている息子のことを見上げると、両手を広げた。
「降りて来い! お前ならできる! そんなに高くない! 三階ぐらいなら大丈夫だ!」
「総悟さん……!」
総悟が声を張り上げた。
「俺が……父さんがちゃんと受けとめてやる! 獅童!」
獅童が手すりの間からひょいと身体を翻らせると、そのまま落下してくる。
桃花は思わず目を瞑った。
ドンっと大きな音がしたかと思うと、恐る恐る瞼を持ち上げた。
(あ……)
総悟の腕の中、獅童がきゃっきゃっと幸せそうにはしゃいでいた。
「獅童、誰かの大事なものを大事にする精神は悪くはないけど、ママには心配かけるなよ」
「うん!」
総悟が初めて獅童の名を呼んで抱っこしている。
その姿を見て、桃花は色んな意味で安堵した。
「だいじ!」
そうして、総悟に抱きかかえられたままの獅童が、嵯峨野に向かって便箋を差し出した。
「おじちゃ!」
ふと、中身が見える。
嗣子の几帳面な字が躍っていた。
最初の方は読めなかったが、後半の文章が桃花の視界に映った。
『……お父さんとのことがあるから、貴方が子どもを望んでいなことを知っています。だけど、私の愛する武雄さんなら、私のことを愛してくれた武雄さんなら、きっと心の傷を乗り越えて――いつまでも、私と子どもを愛してくれると信じています。だからどうか、私がおばあちゃんになるまで長生きしてください。嗣子』
手紙を受け取ると、嵯峨野は無言で涙を流していた。
「ありがとう……」
そうして、警察が現れると、彼は連行されていく。
桃花は総悟から獅童の抱っこを交代する。
「さて、桃花ちゃん……大丈夫だった……?」
総悟がそっと桃花の頬に手を添える。
「あ……」
彼女の瞳からは涙がポロリと落ちた。
「私……」
夕方から獅童を守ろうと必死で気丈に振舞っていたが、本当は怖かったのだと気づく。
自覚した途端、身体がブルブルと震えはじめた。
そっと総悟が獅童ごと桃花の身体を抱きしめてくる。
「ごめんね、桃花ちゃん、俺のせいで……もう会社の買収は済んでて、俺の社員になってたから乱暴なことはしないように頼んでたんだけど」
「いいえ、総悟さんが迎えに来るって言ってくれていたのに……」
泣きじゃくっていると、総悟がますます桃花を強く抱きしめた。
獅童が潰れないか心配なぐらいだ。
「こんな時まで強がらなくて良いんだよ……」
「……っく……う……」
桃花が泣き止むまで総悟は抱きしめてくれていた。
夜空の月が煌々と二人を照らす。
「さあ、帰ろうか」
「はい……」
そうして、家族三人は帰路に就くことになったのだった。