俺様CEOの子どもを出産したのは極秘です
「俺の母親はドイツ出身だっただろう? かなり奔放な女性で、親父を置いて出て行ったわけだ。親父は事業を立ち上げようとして忙しかった。それで、嗣子姉さんが母親代わりになって、病気がちだった俺の面倒を見てくれていたんだ」
嵯峨野が話していた通りの内容だった。
「そうして、高校生になった頃、俺はドイツに治療に行った。病気自体は治癒したけれど、子どもが出来づらいって告知されたんだ。その後、日本に帰国してすぐに、あの交通事故が起こったんだ」
遠い目をした総悟に向かって、桃花は声をかける。
「実は総悟さん、私、少しだけ思い出したんです」
「……え?」
彼が彼女の方へと振り返った。
「あの交通事故の時、私たちは出会っていたんですね」
すると、総悟が翡翠の瞳を揺らした後、くしゃりと笑った。
「そうか、桃花ちゃん、思い出してくれたんだね」
そうして、総悟が気持ちを吐露しはじめる。
「俺は全然家に帰ってこない親父なんかは家族とは思ってなかったし……俺にとっては、姉さんが唯一の肉親だったんだ」
「…………」
「だけど……俺がワガママを言ったせいで、姉さんと赤ん坊を殺してしまったような負い目があった。俺が子どもを産めないことに絶望していたから、姉さんが妊娠していることを言えなかったんだ。そうして、俺は実際に気づいてあげれなかった。妊娠出産は命がけだって聞いてはいたけど、普段だったら何てことないことでも命を失ってしまうんだって、目の当たりにしてしまった」
「お姉さんとお子さんが亡くなったのは、総悟さんのせいではありません」
けれども、彼は少しだけ寂しそうに微笑むだけだった。
「俺も大人になってから、治療をしたら子どもができる可能性があるとは医師からも言われたけれど、万が一にも大事な女性を妊娠させてしまったら……もしかしたら、姉さんのように死んでしまうかもしれない、失ってしまうかもしれない。どんどん自分の子どもは欲しくないと思うようになっていった――いいや、欲しくないというよりも、俺が望んではいけないと――自分に子どもが出来るのが怖い。そんな風に思うようになっていたんだ」
「総悟さん……」
「そんな時、桃花ちゃんが二階堂商事の面接に現れた。事故の時、桃花ちゃんが俺に『生きる価値がある』って言ってくれたから、その言葉に縋って、俺は人生に意味を見出そうと、社会に貢献できればと信じて生きてきた。だから、まさか目の前に現れるなんて……運命ってあるんだなって思った」