俺様CEOの子どもを出産したのは極秘です
桃花が教会へと向かおうと控室の扉を開けた、その時。
「桃花ちゃん、すごく綺麗だね!」
「総悟さん!?」
なんと白いタキシードに身を包んだ総悟が姿を現わしたのだった。
基本的に誓いの言葉までは新婦と新郎は顔を合わせないはずなのだが……
「真っ先に綺麗な君を見たくて来ちゃったんだ!」
「ええっ……!?」
こんな時まで型破りが過ぎないだろうか?
(私が会社に入りたての頃の、自由な総悟さんを思い出してしまったわ)
嵯峨野との一件などもあり忘れかけていたが、元々こういう男性だったと桃花は思い出した。
「こんなに可愛いなんて、本当は他の人たちに晒したくないな。どうしよう、社員の皆が桃花ちゃんの虜になったら解雇しないといけない」
「絶対になりませんから! そんなことで社員の首を切ろうとしないでください!」
桃花はブーケを持ったまま、総悟のことを叱りつけた。
「どうしよう、桃花ちゃんに嫌われちゃった」
「……おかしな冗談を言ったぐらいで嫌いになりません」
彼女は首を横に振った。
(すっかり総悟さんも元の調子に戻ったみたいね)
正直なところホッとしてしまう。
ふと、総悟が口の端をゆるりと吊り上げた。
「俺はさ、色々とスペックに恵まれはしたけれど、桃花ちゃんに対してはあまり役には立たないんだよな」
(自分でスペックに恵まれたというなんて、やっぱり総悟さんは自信家なんだから……)
桃花からクスリと笑みが零れる。
その時――
彼女の前にさっと彼が跪いた。
「総悟さん……?」
桃花の白いグローブを嵌めた手を、流れるような動作で彼が手に取った。
そうして、まるでどこかの国の王子様のように、彼女の掌を恭しくとると、そっと唇を宛がう。
「君に返してなかったものがある」
「え?」
そうして、跪いたまま、彼が懐から白い小包だった。
「君のお母さんから事故の時に預かっていたものなんだ――たぶん誕生日プレゼントのはずだよ」
「え?」
そっと中を開けると――
「これは……」
中身を見て桃花の瞳が潤んだ。
「……お母さん」
可愛らしい薔薇とハートが一緒になったブローチ。
桃花の憧れの戦隊ヒーロー獅童が恋人のヒロインに渡していたブローチによく似ている。
メッセージカードには懐かしい母の字が躍る。
『大好きな桃花へ、ぬいぐるみは子どもっぽいって言ってたから今年のプレゼントはこれよ、貴方が将来好きな人と結婚する時に着けてもらったら嬉しいな、パパは結婚だなんて早いって言ってたけどね。桃花のお母さんとお父さんより』
総悟が跪いたまま告げた。
「君のお母さんとお父さんを助けられなかった分、俺が君のことを大事にするよ」
「総悟さん……」
そうして、翡翠の瞳に真摯な光を宿して告げてくる。
「桃花ちゃん、君にずっと言えなかったことがある」