俺様CEOの子どもを出産したのは極秘です
「そんなっ……!」
桃花は小さな悲鳴を上げた。
ぬいぐるみはころんと横に転んでしまい、アームはカニのような動作で上へと戻っていった。
いけると思った分、ショックが大きかった。
「今日は二千円までって決めてるから……!」
気を取り直した桃花が財布に再び挑むがなかなかうまくいかない。
(なんでだろう、ちゃんとウェブで攻略法も見たのに……)
悔しい思いをしつつ、桃花が本日何度目かの財布に手をかけた、その時。
「桃花ちゃんって、見かけによらず可愛い趣味してるよね」
「きゃあっ……!」
突然声を掛けられる。
すっかり忘れてしまっていたが、二階堂副社長もそばにいたのだった。
彼の言葉が桃花の胸にチクリと刺さる。
(見かけによらず……)
確かに桃花は他の女性社員たちのように華のある見た目とは言い難い。
きっちり真面目に見えるように気を配っているため、その評価で間違ってはいないのだけれど、二階堂副社長に言われると何だか少しだけ胸が痛んだ。
(何かしら……?)
自分では漠然としたもやもやの正体には気づけない。
二階堂副社長が笑顔を浮かべながら、桃花にとある申し出をしてくる。
「なかなか獲れないみたいだけどさ、せっかくだし俺が買ってあげようか? ウェブサイトで頼んだら、すぐに手に入るしさ」
けれども、桃花はその場で断固として抗議をはじめた。
「……そうじゃないんです! 二階堂副社長!」
「ん? 急にどうしたの? キャラ変わってない?」
桃花が二階堂副社長に向かって弁舌を振るう。
「毎日毎日お金を払ってきました! だから、このぬいぐるみ、どうにかこの場で手に入れたくて!」
二階堂副社長が呆気に取られていた。
「なんだかギャンブルに嵌る人の心理みたいだね。お金をつぎ込んだから取り戻したいって感じのさ。君、そんなんじゃ、そのうち変な奴に騙されちゃうよ? 今に、ものすごく痛い目に遭うよ。変な男に騙されて金に困ったりとかさ」
「うっ……」
痛いところを突かれてしまい、桃花は何も言い返せない。
ふと、二階堂副社長の表情が陰る。
「悪い男の子どもを妊娠したりとか、さ……」
彼の横顔は憂いを帯びていた。
(……?)
けれども、彼はすぐにパッといつもの笑顔に戻った。
「まあ、桃花ちゃん、ちょっと代わってくれる? そして、俺を見ててよ」
「そのぬいぐるみは私が獲りたいんです!」
「ああ、分かった、分かった。じゃあ違うやつにするからね」
二階堂副社長が機械の投入口にお金を入れると、クレーンゲームの操作をはじめた。
先ほどの桃花のやり方と一緒の要領だ。
だが、うまい感じにアームが降りると、黒いクマのぬいぐるみのタグに引っかかった。
そうして、排出口をコロリと転がってくる。
「ええっ、なんで一回でとれるんですか!?」
総悟が、してやったりな表情を浮かべている。
「ああ、それはね、コツがあるんだよ」
「コツ?」
「そうそう、桃花ちゃんも知りたい?」
「はい、もちろん!」
(それにしたって……)
桃花は漠然と気になった質問を二階堂副社長に問いかけてみることにした。
「お金持ちの人って、ゲームセンターには行かないイメージがありました。勝手な偏見ですけど」
すると、二階堂副社長が伏し目がちになると、綺麗な翡翠の瞳に影が落ちる。