俺様CEOの子どもを出産したのは極秘です
「今でこそ、二階堂グループって有名だけどさ、親父が一代で財を築いた成り上がりなわけ。御曹司っていっても由緒は正しくないんだな、これが……」
「あ……」
自社のことだから調べているが、総悟の父親に当たる二階堂総一郎が起業して軌道に乗ったのは、ここ十五年ぐらいだったはずだ。
それに当てはめて考えれば、生粋のお坊ちゃんというわけではないらしい。
「それでさ、学生時代の俺ってば、両親ともに構ってもらえなくてさ。自棄を起こして、街の不良とつるんでた時代もあるんだよ。その時に、こうやってクレーンゲームも上手になったんだ」
「そうだったんですね……」
桃花はなんだかしんみりした気持ちになってしまった。
(女性遊びが激しくなったのも、両親が不在の寂しさを埋めるためだったのもあるかもしれない……)
自分の方こそ、彼のことを勝手に見た目で判断してしまっていたと後悔する。
桃花は謝罪しなければならないと二階堂副社長に向かって謝罪する。
「私、勘違いしてました、副社長のこと。もっと人生楽して生きてきた人だって……」
「え?」
「私も両親が不在だったから、副社長の気持ちが分かります。ええっと、人それぞれ違うから、分かるって言われて、もしかしたら不快に思うかもしれないんですけれど……」
桃花は言葉を選びながら思いを伝えた。
「だけど、本当は嫌なこと我慢して一生懸命頑張って来られたんだなって考えを改めました。今まで誤解してごめんなさい」
桃花は誠心誠意心をこめて謝ることにした。
「その、副社長の女性関係で傷ついてきた女性達もいっぱいいるかもしれません。だけど、どれだけ人には自慢できない酷い過去があったとしても、絶対に人はやり直せますから!」
すると、二階堂副社長が瞳を忙しなく揺らした。
どことなく傷ついた子どものように見えたのだ。
(どうしよう、さっきから二階堂副社長の顔を曇らせてばかりで……変なことを言ってしまったかもしれない……)
けれども、しばらくすると二階堂副社長が腹を抱えてくくっと笑いを零しはじめる。
「桃花ちゃん、君って……」
「え?」
今度は、桃花が呆気にとられる番だった。
彼が舌をぺろりと出した。
「……なんてね、ほら、やっぱり君さ、騙されやすいって言われない?」
あげく、総悟は浮かんだ涙を指で拭っている始末だ。
(まさか、揶揄われた……!?)
だんだん腑に落ちてくると、恥ずかしいやら悔しいやらで、そっぽを向いてしまった。
「親父が起業したのは確かだけどね」
二階堂副社長は腹を抱えて笑っている。
「本当、君、真面目だし、詐欺なんかに騙されやすそうで心配だな……ああ、面白い」
桃花はムッとしながら返答した。
「……騙されやすそうですか?」
「うん、ものすごく騙されやすそう」
二階堂副社長が指で涙を拭いながら答える。
彼の嘘に実際に騙されていたのだから、反論のしようがなかった。
「ほら、桃花ちゃん、これも君にあげるよ。機嫌直してよ」
手渡されたのは、先ほど獲ってくれた黒いクマのぬいぐるみだ。
「ありがとうございます」
ちょうど赤ん坊ぐらいの大きさで、抱きしめるとフカフカしていて、顔を埋めると心地よい。
「ほら、今度は桃花ちゃんの番だ。ずっと欲しかったやつをとってごらん」
「はい、分かりました!」