俺様CEOの子どもを出産したのは極秘です
二階堂副社長は面食らっていた。
「君があまりにネガティブ思考なのには驚いたよ……」
二階堂副社長が大仰に溜息を吐いたものだから、桃花は少しだけ萎縮してしまった。
「だったら、どうしてキスしたんですか……副社長には、だって……」
すると、彼の親指が彼女の唇に宛がわれる。
「俺だって……何も気にならない女性に対して、そんなことしないよ」
ドクン。
桃花の心臓が大きく跳ねた。
バクバクと早鐘を撃って落ち着かない。
「……気になるのは、遊びの相手としてってことですか?」
「日ごろの行いが悪いと、こういう時に困るんだな。まあ、確かにこれまでは色々遊んでばっかりだったけど……君に嫌われたり誤解されるぐらいなら止めようかなって思う」
二階堂副社長の困ったような瞳を見ると、なんだか胸が疼く。
「……嫌いになんて、なれるはずが……」
桃花は口を噤んだ。唇が戦慄く。
さっきからずっと二階堂副社長の発言に一喜一憂してしまって、気持ちがかき乱されてしまう。
(こんなの……こんなの私じゃない……)
なんだか胸が苦しくて息ができないぐらいに苦しくなってしまった。
「桃花ちゃん、どうしたの……?」
「……こんなの私じゃないみたいで……なんだか嫌……」
「どういうこと?」
桃花の瞳からぽろぽろ涙が溢れてくる。
「一人で何でも頑張らないといけないって思って、やってきたのに……あなたといると、頼りたいって気持ちがわいてきて……」
「桃花ちゃん」
二階堂副社長の手がそっとこちらに伸びてくる。
「私、私は、一人で頑張ってきて、頑張れない私は、私じゃ……んんっ……」
桃花は、それ以上の言葉を紡ぐことが出来なかった。
(あ……私はまた……)
またしても総悟の唇に唇を塞がれてしまっていた。
昨日とは違って、荒々しく唇を貪られてしまう。
「んんっ……あ、二階堂社長、何を……」
息継ぎもできないほど、溺れそうなほどに、深い深い口づけを施される。
……このまま彼という海に溺れてしまえたら……
そうして、彼の唇が離れた。
「桃花ちゃん、ねえ、だったら、俺に君の全てを教えてほしい……」
「何を……言って……」
「しっかりものの仮面を被って頑張ってる君もカッコいいけどさ。本当は人一倍誰にも優しくて甘えん坊なこと、知ってるよ」
「それが……そんな甘えたりしている私が、私らしくなくって……」
抗議すると、顎を指で掴まれてしまい、上向かされた。
熱を孕んだ眼差しに射抜かれると、全てを委ねたくなってしまう。
「いいや、どんな君でも君は君だ」
「……っ……!」
桃花の胸がきゅうっと疼いた。
「誰かに迷惑をかけたり失敗したらダメで……」
「人は間違えるけどやり直せるって、教えてくれたのは君じゃなかったかな?」
総悟のいつになく真剣な眼差しに、絡めとられて動けなくなってしまった。
「『生まれてこなければ良かった人間なんて、この世にいるはずがない』、そう俺に声をかけてくれたのも君だ」
彼が慈しむような手つきで、彼女の頭を撫でる。
『生まれてこなければ良かった人間なんて、この世にいるはずがない』
どこかで聞いたことのある言葉。
だけど、桃花には思い出すことができない。
「……私は、いつ……」
すると、彼女は彼に再び口づけられる。
「ん……」
再び離れたあと、二階堂社長が甘く縋るような声音を発した。
「ねえ、俺も君に全てを曝け出すから、どうか俺にも君の全てを見せてよ……桃花……」