俺様CEOの子どもを出産したのは極秘です
総悟の長い指が桃花の華奢な指に絡みはじめた。
まるで恋人のように両手の指が重なり合った。
総悟が桃花にゆっくりと口づけると離れると、懇願するような声音で囁いてくる。
「桃花ちゃん、ねえ、これから先もずっと俺だけだって誓ってくれる?」
「それは……」
彼に突然請われてしまい、彼女は戸惑ってしまう。
けれども、質問の内容がじわじわと頭の中に浸透してくる。
噛み砕くと、総悟だけが一方的に得をするズルい契約事項ではないか?
「……私だけが、ですか?」
桃花の瞳の光が揺れ動くと、総悟が縋るような瞳を返しながら続けた。
「……俺もこれから先、君だけだって誓うから」
(あ……)
それは……
(総悟さんは私だけって約束してくれようとしているの?)
総悟が顔をくしゃりとゆがめた。
「日頃の行いが悪いせいで……信用してもらえないかもしれないけど……ああ、俺は何言ってるんだろう、こんな気持ちになったの初めてだから、自分でも何をお願いしてるんだか分からない」
普段はあんなに自信満々なのに、どことなく気弱な口調だ。
桃花はクスリと笑った後、ゆっくりと頷いた。
「はい、わかりました」
すると、総悟が太陽のように微笑んだ。
「良かった、女性に対してこんなこと言うの初めてだから緊張したよ」
「……初めて?」
「もちろん、桃花ちゃんは俺の特別だからさ」
特別。
その言葉の響きがあまりにも心地良くて……
桃花の胸の内に薔薇でも咲き誇ったかのようだった。
「桃花ちゃんには、ずっとずっとそばにいてほしい」
「あ……それは専属秘書として、ですか?」
すると、総悟が即答した。
「ううん、違うよ……上司だとか部下だとか関係なく、俺のそばにいてほしいんだ」
「総悟、さん……」
嬉しい言葉をたくさん聞けて桃花はまるで夢の中にいるようだった。
(あれ……?)
ふと、彼女は彼の前腕に掌位の長さの古い傷痕が見えて、そっと触れてしまう。
「総悟さん、痛そう」
「ああ、昔のだからたまに雨の時なんかに痛むぐらいだよ」
何となく、いつついた傷なのだろうかと気になってしまった。
以前から桃花のことを知っているような素ぶりを見せることのある総悟。
傷を見た時に、ふと自分の両親の事故のことを想起させた。
あの事故の時、病院に別の家族が近くにいなかっただろうか?
(彼の過去を詮索するのは良くない傾向だわ……)
桃花は自分を律しようとしたのだが、だけど、何となく結ばれる前に確認はしてほしかった。
「総悟さん、私たちはどこかで会ったことがありますか……?」
すると、総悟が苦しそうに見えて、桃花の胸はきゅうっと疼いた。
「……あなたが言いたくないのなら、無理に答えなくても大丈夫ですから」
彼が少しだけ寂しそうに微笑んだ。
「今言わないのは卑怯かもしれないけど……話せる時が来たら、絶対に話すから」
もしかすると総悟と自分はどこかで出会っていて、
さすがにそれは自意識過剰すぎる想像かもしれないけれど……
だけど今は、彼が自分をすごく大事にしようとしてくれているのが伝わってきているから……今はそれで良い。
「分かりました」