俺様CEOの子どもを出産したのは極秘です
最初は内科を受診したのだが、なぜか産婦人科へ向かうように説明を受けた。
検査をした後の待ち時間、色んな婦人科疾患について調べている時に、とある単語が目について、心臓がドキンと跳ね上がった。
(妊娠……?)
総悟の顔が頭に浮かんだ。
心当たりが全くないわけではないが、一夜を共にしただけだ。
(……さすがにない気がする)
そもそも元々月経痛がひどかったこともあり、最近婦人科に通院して経口避妊薬を内服しはじめていたのだ。
しっかり内服していたし、絶対にありえない。
そう思いながら診察室に案内されると、女性医師の前へと座らされる。前下がりのボブに涼し気な顔立ちをした美人女性で、白衣を上品に着こなしている。
そうして、彼女に宣告された内容を耳にして桃花は衝撃を受けてしまった。
「え? 妊娠、ですか? だって、ピルも飲んでいて……」
「飲み始めていると定着しないこともありますから。経過を見るに八週というところでしょうね。最終月経日から算出して出産予定日は……」
本来なら喜ぶべき話のはずなのに、頭の中が真っ白になってしまった。
昔から予定外の事態には弱い。
それも自分以外の命が関わる話となれば尚更だ。
いつも以上にぎゅっとみぞおちがズンと痛む。
袋小路にでも迷い込んでしまったかのように、思考がぐるぐると回り続ける。
(結婚もまだなのに子どもが出来てしまうなんて……)
生真面目に生きてきたし、ちゃんと避妊もしたつもりになっていた分、受けた衝撃は凄まじかった。
「梅小路さん、それでは母子手帳を貰いに役所に向かってください」
突然医師の発言が明瞭に耳に届いて、ハッと顔を上げた。
(母子手帳……)
いよいよ妊娠が事実なのだと思い知らされるような心地がした。
本当なら喜ぶべき事態のはずなのに、桃花は俯いてしまった。
何かを察したかのように医師が一度頷くと淡々と告げてくる。
「未婚の女性の方もよく受診されますから、ご安心ください。もちろん子どもだけではなく、母親である貴女の身体も大事です。貴女が最善と思う選択肢を選んでくださいね。それでは看護師からこれからの流れを聞いてご帰宅ください。何か相談があればいつでも対応します。電話でも構いませんから。それでは、次回の検診予定日になりますが……」
それ以上は言葉が耳に入ってこなかった。
なんだか夢の中での出来事みたいで、頭の中がふわふわしている。
(まさか妊娠しているなんて……)
どうやって帰宅したのかは定かではないが、桃花はいつの間にか自宅マンションに帰りついていた。