俺様CEOの子どもを出産したのは極秘です



「総悟さんは……」

 これまでたった数か月だが、総悟のことを見ていた。
 だからこそ、嵯峨野の言う話を完全には真に受けることはなかった。

(総悟さんは嵯峨野さんが言うような人じゃないわ……)

 ライバル会社の嵯峨野が適当な嘘を吐いている。
 それで間違いないはずなのに、完全に否定することが出来ないでいた。
 嵯峨野の虚飾の中にも真実が紛れているのではないか、そんな疑念が沸いてきて止まらない。
 何が嘘で何が本当なのか分からない。
 だけど、桃花の中で府に落ちる事実が、嵯峨野の話の中に一つだけあった。

(総悟さんはずっと私のことを知っているようだった。どうしてだか、一社員の私の両親の死因だって知っていた)

 総悟の腕にある古傷。
 あれは、桃花の両親の交通事故の際に負った傷なのではないか?

(人はやり直せるのかって、総悟さんが気にしていたことがあったわ……)

 桃花の中で繋がってはいけないパズルのピースが繋がり合う。

(そうか、そうなのね……)

 総悟が桃花に抱いているのは、愛ではない。

 見殺しにした夫婦が残した、たった一人の子ども。

 総悟が自分に抱いているのは……
 

(……同情)


 両親を失った憐れな女性に施しをしてやったに過ぎないのだろうか?
 疑念がどんどん湧いて消えてはくれない。

(二階堂商事はすごく良い会社。そんな会社に入職出来たのだって、総悟さんが私の存在に気付いたからに過ぎない。ある意味コネみたいなもので、実力で入社できたんじゃなかったんだわ……)

 なんだか桃花は惨めな気持ちになった。
 今までの努力が全て自分の力だけで成し遂げることが出来たものではなかったのだ。
 一人で地に足付けて生きてきたつもりだったのに、全てが否定されたような気がして、足元から崩れてしまいそうだった。

(私は……なんだろう、何のために真面目に生きてきたんだろう……こんなことになってしまって、取り返しがつかない……)

 総悟と竹芝のやり取りが頭の中に浮かんでいく。
 総悟は桃花をそばにずっと置いておきたいと話していた。
 だけど、彼には昔から大事に想っている女性がいるのだ。
 だとしたら、桃花には妻の立場ではなく、愛人か何かとしてそばにいて欲しいということだったのだろうか?

(だったら、私は総悟さんの愛人としてこれから生きていけば良いの……?)

 嵯峨野に掛けられた言葉のせいで気弱になってしまっているのか、どんどん悪い想像が膨らんでいく。
 ただでさえ妊娠して情緒が不安定だった。
 だんだんと気持ちが塞いでいく。

「きっと、総悟さんは、大事な女性の子どもしか欲しくないんだわ。だから、子どもなんて必要ないって話していて……私との子どもはそもそも欲しくなくて……」

 その時……

< 59 / 189 >

この作品をシェア

pagetop