俺様CEOの子どもを出産したのは極秘です
まだ胎動がある時期でもなんでもないのに、なんとなくお腹の奥が熱く感じて、桃花はハッと正気に戻った。
(この子は……)
総悟に桃花以外に大事な女性がいることと、総悟が子どもを欲していないこと。
(それぞれ別の問題で、一緒に混ぜて考えてはいけないんだわ……)
桃花は震える手を、そっと自身の下腹部に手を当てた。
(私の赤ちゃん、この子には罪はない)
総悟は自分の子どもなんて必要ないし欲しくないと話していた。
優しい総悟のことだから、もしかするとちゃんと説明さえすれば、桃花を愛人としてではなく、結婚して妻にしてくれるかもしれない。
だけど……
父親から求められずに生まれてきて、挙句の果てに、その父親から愛を注がれない我が子のことを想像すると胸が軋んだ。
そもそも、父親に望まれない子どもなんて、この世にいて良いはずがない。
最初から父親に疎まれることが分かっていうなんて、そんなの可哀そうだ。
桃花に初めて宿ってくれた赤ちゃん。
哀しい未来を回避できるのが絶対に良いに違いない。
だったら……
「私は……」
なんだか内側から、赤ん坊が何かを訴えかけてきている気がした。
何を伝えたいのかは分からなかった。
だけど、この子を守れるのは……この子の未来を守れるのは……
「私」
お腹の中に我が子がいるのだと思うと、卑屈な自分はどこかへと消えていく。
総悟からもたらされた優しさの全てが嘘だとは思えなかった。
だけど、総悟にとって、桃花との子どもが傍にいない方が幸せなのだとしたら?
桃花の子どもにとっても、愛情のない父親がそばにいない方が幸せなのだとしたら?
「この子には、幸せな人生を歩んでほしい」
……偽りではなく真実の愛に囲まれた人生を生き抜いて欲しい。
「シャンとするのよ、桃花」
いつの間にか桃花の涙はどこかへ引っ込んでいた。
本当は総悟にも喜んでもらいたかった。
だけど、彼にとっても自分にとっても、最善の道を選んだ方が良いだろう。
「私はちゃんと自分の行動に責任をとるわ。私にとって唯一の家族なんですもの」
本当は総悟に家族になってもらいたかった。
君は君だよと言ってくれた初めての男性。
だけど、その夢は崩れた。
だとしたら、母になった桃花が取る道は一つ。
「愛のない父親は……いらない」
桃花はまっすぐに前を――未来を見据える。
「私が、この子の父親の分まで、愛し抜いてみせるわ」
生まれてくる我が子を幸せにできるのは……
……自分しかいないのだから。
桃花の足取りはしっかりとしたものへと変わる。
彼女の瞳からは、もう迷いは消えてしまっていたのだった。