俺様CEOの子どもを出産したのは極秘です


 子ども園に電話をかけた後、必死に仕事に取り組んだ。結果的に、獅童を延長保育ギリギリの時間になんとか迎えに行くことができたのだけれど……

 マンションに戻ってきた桃花は、獅童と一緒にお風呂に入りながら今日の出来事を思い出していた。

「もう! もうもう! 総悟さんの、あの態度、腹が立つわ! 何が『今の君には難しかったようだ。残りは俺がやっておく。俺がやった方が早いからな』よ! じゃあ、最初っから仕事を振ってくるんじゃないわよ!」

 母親の叫びに驚いたのか、獅童は最初目を真ん丸にしていたが、すぐにニコニコと笑い出した。

「も~! も~! うし~!」

 牛の啼き声か何かと勘違いしたのか、我が子がも~も~言い出したので、桃花からクスリと笑みが零れた。

「獅童、ありがとうね」

 子ども園に預けるようになったので、獅童といる時間が今までよりも短くなっている。愛情は量よりも質だという言葉もあるけれど、やっぱり量が多い方が良いのではないかと迷ってしまうこともある。
 だからこそ、こういう母子二人の時間を大事にしたいのだ。
 スポンジで出来た船の玩具で楽しく遊んでいる獅童を見ていると、徐々に桃花の気持ちも落ち着きを取り戻してくる。

「じゃぶじゃぶ。じゃぶじゃぶ」

「ふふ、獅童は乗り物が好きね」

 しばらく獅童と一緒に湯船で遊んでいたら、ふととあることに気付いた。

(もしかして、総悟さんは二年前、私に気を遣って仕事量を調整してくれていたの……?)

 自分一人で何でもできる気がしていたが、もしかしたらそうではなかったのかもしれない。
 今日だって、桃花に大量の仕事を振ってきていたが、残りは全て総悟が引き受けてくれた。

(仕事を残して帰るのは好きじゃないから、ちゃんとやりますって言ったけど、総悟さんから断られてしまったのよね……)

 態度はかなり冷淡なものに変わってしまっていたし、言い方はかなり嫌味だったが、根底にある優しさのようなものは変わっていないのかもしれない。

(私がそんな風に思いたいだけかもしれないけれど……)

 桃花がふうっとため息を吐くと、獅童が不思議そうに母親の顔を覗いていた。
 それにしたって、相変わらずの総悟の有能ぶりを見ていると漠然と思うことがある。

(もう私なんていなくても良いんじゃない?)

 そもそも専属秘書の桃花に仕事を振らなくても自分で何でもこなしてしまうし、この二年間、桃花以外の専属秘書が在籍した期間はほとんどなかったという。
 どうして、二階堂会長と竹芝から専属秘書として戻ってきてほしいと懇願されたのかも分からない。

(てっきり獅童のことがバレたと思ったけど、誰もその話はしてこないから、違う理由なんだろうし……だったら総悟さんのそばに私が帰る意味がない気がするんだけど……)

 とはいえ、二年前の総悟とすれば、今の総悟は根詰めて働きすぎな気がして、桃花としてはそちらの方を心配していた。

(あんな風に仕事を詰め込んでするタイプの人じゃなかったのに……)

「……って、総悟さんも私に心配されても嬉しくないか……さて、獅童上がりましょう」

「うん!」

 桃花は愛らしい我が子を抱っこすると、ザパリと湯船から外に出たのだった。


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