俺様CEOの子どもを出産したのは極秘です
車の運転席に竹芝、助手席に桃花、後部座席に総悟を寝せる形で車に乗り込んで、総悟の自宅マンションへと向かう。
(竹芝副社長と一緒になるのは、おばあちゃんの家に迎えに来てくれた時以来ね)
新入社員時代にお世話になった竹芝に対して、親しみと同時に罪悪感のようなものが胸に去来してきて、助手席に座る桃花は頭を下げた。
「二年前は急に仕事を辞めてしまって申し訳ございませんでした」
申し訳なさでなかなか顔を上げられずに俯いたままでいたのだったが……
「梅小路さん、そんなにご自身を卑下なさらないでください」
竹芝副社長は運転しながら焦ったような調子で返してくる。
柔和な表情の彼の様子を見ていると、桃花はなんだかホッとして心が落ち着いてきた。
「ありがとうございます」
竹芝副社長が、ハンドルから片手を離して眼鏡を一度持ち上げると話を続ける。
「去り際の梅小路さんの対応は誠実でした。だから、何か理由があったんだろうと思っておりましたので、こうしてまた我が社に戻ってきてくださって、本当に助かります」
「こちらこそ、そういっていただけるなら嬉しいです」
竹芝から優しい対応を受けるにつれ、桃花の暗鬱な気持ちが晴れていくようだった。
(良かった、竹芝副社長が変わってなくて……)
優しい彼に対して、彼女は思わず自身の気持ちを吐露する。
「私、専属秘書に戻ったのに、二階堂社長が見るからに具合が悪そうになっているのに気づけませんでした。そもそも私がいない間も、社長はお一人で何でもこなしていたんですよね?」
「ええ、そうなんですよ。総悟は専属秘書は置きたくないと言い張って一人で何でもこなしてたんですよ。正直、端から見ている方が心配で冷や冷やしてました」
「そうだったんですね」
この二年間、総悟はかなり無理をしてきたということだろう。
「だから、今回倒れたのも、梅小路さんが戻ってきてくれたので、総悟も少し気が緩んだのかもしれないと思っています」
「え? 私が戻ってきたから?」
「ええ、そうです、総悟も梅小路さんが見つかったのでホッとしたんでしょう。あれだけのんびり働きたがっていた総悟だったのに、梅小路さんが去った後から、仕事が恋人ぐらいの勢いで根詰めて働くようになってしまって。尋常なぐらい仕事を引き受けるものだから、社員側にも負担がかからないか心配なぐらいでして……」
(……私が去ってから……)
桃花は胸がぎゅっと苦しくなった。
「梅小路さんも仕事復帰してすぐに、総悟がたくさん仕事を抱えているから大変ではないですか?」
「昔に比べたら仕事量が増えたなと思っていたんですけど、そう言った理由だったんですね」