俺様CEOの子どもを出産したのは極秘です
(総悟さん……)
なんとなく情緒不安定な彼をそのままにして帰れなくて、桃花はソファから立ち上がると、部屋の扉の前で右往左往してしまった。
すると、総悟が低い声音で告げてくる。
「帰って良いって言ってるだろう?」
「……ええっと、そうですね、社長の邪魔になっているようですし……戻って来てからも社長の邪魔ばっかりで……」
最近の自分の仕事の出来なさもあって、何となく話していて元気がなくなってしまった。
「ひとまず今日は帰りますね」
すると、総悟が桃花のことを呼び止めた。
「邪魔じゃない」
「え?」
「……言い方が悪かった。君のことを邪魔だとか思ってないから、竹芝に言われた通り、定時まで俺のそばにいてほしい」
もしかすると、総悟に気を遣われたのかもしれない。
(私は……疲れて倒れた人に気を遣わせてしまうなんて……総悟さんのことをちゃんと見ないといけないと思ったばかりだったのに……)
少しだけ薄暗い部屋の中、桃花はベッドサイドに向かう。
「もうあんなことしないから、せっかくだから近くにきてくれないか」
「分かりました」
総悟から許可をもらって、桃花はベッドの端に座った。
総悟の部屋の中、しばらく黙って二人で過ごす。
天井を眺めたまま眠らずにいた総悟がポツリと口を開く。
「……どうしていなくなったの?」
「え?」
「二年前、どうしていなくなったのか、俺には理由を話したくないの?」
「それは……」
桃花は口ごもってしまう。
(総悟さんの考えが二年前の時のままなのか、それとも変わったのかはまだ分からない。だから、まだ話せない)
相手の考えが分からないまま、獅童のことを話すことは絶対に出来ない。
すると、総悟が呻くように告げた。
「俺が色んなことに対して真面目じゃないから、俺のことが嫌になったんでしょう」
「……え?」
総悟がぽつりぽつりと口にする。
「あの夜も……自分だけが舞い上がっていたんだ。良かれと思って、酔っていた君に手を出した……昔から俺は周りが見えなくなる。君に嫌がられているのにも気づけないぐらいに」
「二年前の夜は……あれは私の意志で……」
「でも、避けるようになったでしょう、俺のこと。しばらくはご飯なんかに付き合ってくれてたけど……上司なのを良いことに部下の君を好きにしただけで……君は真面目だから断れなくて……」
総悟は腕で両眼を隠すと、それ以上は何も言わなくなった。
どことなく泣きそうな雰囲気だけど気のせいだろうか。
(総悟さんはもしかして、私に無理やり手を出して、それで私が総悟さんのことを嫌いになったから仕事を辞めたと思っているの……?)