俺様CEOの子どもを出産したのは極秘です
それは完全に誤解だ。
だけど、総悟の側からすれば、桃花が妊娠してどこかに行っただなんて思いもせず、そんな誤解を抱かせてしまったのかもしれない。
(私は別に総悟さんのことが嫌いになったから離れたんじゃない。お互いにとってそれが良いって思ったからで……)
そのことはちゃんと伝えないといけない。
「私ももう大人でした。あの夜も社長はちゃんとどうしたいのか確認してくださっていましたし……私は社長のことが嫌になって離れたんじゃありません」
総悟が息を呑んだ。
「だったら……何でいなくなったの……?」
それ以上のことを桃花は口にすることが出来なかった。
総悟が呻くように続ける。
「……ちゃんとするから……ちゃんと桃花ちゃんに嫌われないように、真面目な男になるから……お願いだから、もう俺の前からいなくならないで……」
かつての愛称で呼ばれたので、桃花の身体はピクンと跳ねる。
(私の自意識過剰かもしれないけど……)
「もしかして、私がいなくなってから、副社長は真面目になろうとして仕事ばかりされていたんですか?」
しばらく返事がなかったが……
「……そうだよ」
ポツリと返事があった。
「あの頃の俺じゃダメだったから、君はいなくなったんだ。だから、変わらないといけないと思って……」
どうやら総悟は思考が堂々巡りをしているらしい。
(こんな風にずっと自分のことを責めていたの……?)
桃花の胸が罪悪感で軋んだ。
(竹芝さんも言っていたわ……総悟さんはずっと働き詰めになっていたって……元々もっとゆとりをもって働いた方が言って、あれだけ話していたのに……)
仕事に精を出すのは悪いことではない。
だけど、本来の自分を否定したり殺してまでやるのは本末転倒だろう。
「この間の面接の時も、ひどいこと言ってしまって、ごめん、もう謝っても許してはもらえないかもしれないけど……自分でも君にどう振舞って良いのか……分からなくなってしまって……こんなだから、君に嫌われたんだ。変わらなきゃいけないのに……」
総悟の口から紡がれる懺悔の言葉の数々は、彼自身を傷つけるような言葉の類で……
桃花はぎゅっと胸の前で両手を握りしめると、真摯な態度で相手に望むことにする。
「……どんな君でも君だよって私に言ってくれたのは、総悟さんでしたよね」
すると、総悟の身体がピクリと跳ねる。
「何度でも言いますが、私は総悟さんが嫌で離れたわけじゃありません。総悟さんがダメだと思ったこともありません」
桃花はそっと総悟の手を取る。少しだけひんやりして冷たかった。