フェンリルに捧ぐ愛の契り 〜旦那さまを溺愛してもいいのは私だけです! 耳を食みたいのです!〜
第1話「王女様は想像力が豊か」
王は悩んでいた。

隣国との戦争があり、結果として勝利を得た。

問題はその際に王が口にした発言を発端とする。

「敵将の首をとった者の願いを叶えよう」と声を高らかに宣言した。

その言葉に兵の指揮は高まり、見事敵将を打ち取って戦は終結した。

勝利をおさめた者が王に謁見し、願いを申し出る。

「王の愛娘から一人、我が妻として迎えたい」と。

王はその申し出に頭を悩ませた。

何故ならその願いを口にした者、人間ではなく銀色の毛並みをした巨大な狼だったため。

王に二言はない。

だが相手は狼。

愛する姫を娶りたいとはあまりに不安なことであった。

頭を抱えて唸るばかりの王の前に、愛娘の一人が名乗り出る。

「お父様。私が此度の英雄のもとへ嫁ぎましょう」

長い紫紺の髪を三つ編みにして背中にながす。

ぱっちりとした二重のアーモンドアイに、右目の下には小さな黒子。

ディープピンクの瞳はキラキラ瞬くように輝きを携えている。

「しかしだな、ルーナ。相手は狼だぞ」

これまで考えたこともない悩みに王は歯切れを悪くする。

第一王女・ルーナはいつまで経っても覚悟を決めない王ににっこりと微笑み、背筋を伸ばした。

「王ともあろう方が約束を破られるわけにはいきませんわ」

「うーん……」

「下の姫たちはまだ幼い。ですからここは私がまいります」

目を柔く細めて、おっとりとした笑みを浮かべた。

「英雄の妻になれますこと、とても誇らしく思いますわ」

あぁ、これは止めても無駄だと王は察して頷いた。

ルーナは一度言い出したらきかない頑固な性格をしている。

下に6人も妹姫がおり、それゆえ面倒見の良さもあった。

(戸惑い? 恐怖? ……そんなものないわ。どうせ好きな人といっしょにはなれないのだから)

狼だろうが、人だろうが、どちらでもよい。

王女としての選択、長女としての役割を放棄出来れば満足だった。

まだ下の姫たちは数えて十にも満たない年齢。

一人歳の差のあるルーナからすればかわいいものだ。

その責任感と庇護欲がルーナを突き動かす。

こうして第一王女・ルーナは戦争の英雄である銀狼のもとへ嫁ぐこととなった。
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