フェンリルに捧ぐ愛の契り 〜旦那さまを溺愛してもいいのは私だけです! 耳を食みたいのです!〜
「もういいだろう!? 降りるんだ」
「いやです。私は旦那様に触れていたいのです」
「なっーー!?」
白い息が熟れた果実の唇から吐き出され、大気に溶け込んでいく。
顔をあげたルーナの瞳には涙がたまっており、リアムの身体をよじ登り、耳元に顔を近づける。
「旦那様が好きです」
うっすらと毛の生えた耳元を食み、頭頂部に唇をおとす。
「出会ったときから旦那様に惹かれておりました。ですが……嫁ごうと決めた理由は違います」
脳裏をよぎるは亡くなった母親だ。
戦争でほとんど王城にいなかった父王。
母親は一番下の姫を産み、そのまま亡くなった。
6人もの姫たちを守れるのはルーナしかいなかった。
心から姫たちのことを愛していたが、時折ルーナは寂しさに泣いた。
ルーナには甘えられる相手がいなかった。
動物と接しているときは心癒されたが、ルーナが甘えるわけではなかった。
「疲れていたのかもしれません。愛することは幸せだったけど、甘える愛だってほしかった」
銀の毛を掴み、握りしめる。
「旦那様を好きになりました。旦那様は強い方なのでしょう。ですが私には抱きしめたい方です」
フェンリル。
魔獣は独立した生き物であり、群れようとはしない。
だが人の姿を真似、生活を学ぶ姿はとてもではないが狼らしくない。
憧憬のまなざしで人里を見る切なげな姿が焼き付いて離れなかった。