フェンリルに捧ぐ愛の契り 〜旦那さまを溺愛してもいいのは私だけです! 耳を食みたいのです!〜

嫁入り支度を終えるやルーナはすぐに狼のもとへ嫁ぐ。

馬車に乗って狼と待ち合わせをする森のふもとまで向かった。

十日ほど馬を走らせてたどり着いたのは深い霧のかかった深緑の森。

もっとも近い人里でも馬車を走らせて半日はかかるだろう。

王都からずいぶんと雰囲気を変え、御者は本当にここでよかったのかと戸惑いを見せていた。

ルーナは上機嫌に鼻歌をうたいながら御者の手をとり、馬車から降りる。

長時間の旅に疲れた様子をみせない。

防寒対策のローブに、厚めのブーツをはいており、森に入るうえで問題はなし。

唯一、人が森へと入るために開いたふもとに立っていると、森の中から草木を踏み分ける音がした。

「まぁ!」

それは見上げるほどに大きな銀色の毛並みをした狼だった。

瞳は左右で色が異なり、左目は黄金、右目は深紅でまるで宝石のようだ。

ふさふさの尻尾が右に大きく揺れているのをみるとルーナは目を輝かせた。

(な、なんて立派な!)

うずうずとした気持ちを押し込め、伸びそうになった手を後ろに引っ込めると咳払いをする。

「あ、あなたが英雄様でいらっしゃいますか?」

ルーナの問いに狼は濡れた鼻をスンと鳴らす。

どうやら質問に対し、そうだと言っているようだ。

黒いちょぼっとした鼻を突きたくなる欲求を抑え込み、息を吐いて胸に手を当てる。

「お初にお目にかかります。私、アイスノ王国・第一王女のルーナと申します。あなた様のお嫁になるため参りました。どうぞよろしくお願いいたします」

「……来い」

草を踏む軽い足音が遠ざかっていく。

(……喋りましたわ)

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