フェンリルに捧ぐ愛の契り 〜旦那さまを溺愛してもいいのは私だけです! 耳を食みたいのです!〜
顔をあげると、白髭をたくわえたルーナの父が腰かけていた。
城下町と比較して冷気の強い森に備えた分厚い恰好をしている。
馬車の入り口が閉じ、カギをかけられるとルーナは慌てて身体を起こす。
「これはどういうことですか、父上!」
「出せ」
「父上!?」
馬車が走り出す。
ふもとに停められていた馬車はすぐに走り出し、激しく揺れる。
砂利の多い道でスピードを出しているため、手すりにつかまらなくては座っていることも難しかった。
リアムの叫び声が遠ざかっていく。
とんでもないことが起きているのだとルーナは血相を変えて馬車から出ようと入り口に手を伸ばす。
「おとなしくしろ。舌を噛むぞ」
「こっ……れは、裏切りですよ!」
父王の目は氷のようだった。
まるでリアムに興味のない冷酷な顔をしている。
嫌な予感にルーナの視界が涙でにじみ出す。
(いや……どうして? 旦那様。旦那様っ!!)
リアムが苦しんでいるのに距離は離れていく。
両手は拘束され、扉は外側からカギがかけられている。
何もできないまま、ルーナは悔しさに悲鳴を上げた。