フェンリルに捧ぐ愛の契り 〜旦那さまを溺愛してもいいのは私だけです! 耳を食みたいのです!〜
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それから森から近い栄えた街に着き、ようやく馬車から降りることが出来た。
リアムのことが気がかりなルーナはすぐに逃げ出そうとするが、騎士たちに囲まれ逃げる隙がない。
そのままチャンスに恵まれることなく、辺境地の伯爵家で身を休めることとなった。
拘束されたまま屋敷の中へ入ると、中で待っていたであろうケープの下に厚手のドレスを身にまとう女の子が立っていた。
「ルーナお姉さま!」
「シルヴィア……」
シルヴィアはルーナの姿を見るなり、飛びついて抱きしめる。
ポロポロと大粒の涙を流すシルヴィアにルーナの涙腺も弱くなった。
シルヴィアはアイスノ王国第2王女であり、ルーナの妹だ。
数えて十歳を迎えたシルヴィアはしばらく見ないうちに王女らしい顔つきとなっている。
久しぶりに顔を見た妹姫に懐かしくなり、同時に嬉しくもあった。
「ずっと会いたかったです、お姉さま!」
「……えぇ。私も、会いたかった……」
だがすぐにリアムのことが脳裏に過って表情を陰らせる。
泣き出すルーナに驚いたシルヴィアは目を見開き、どうしたものかと狼狽える。
「お姉さま?」
「すぐに湯浴みをさせろ。ずいぶんと獣臭くなった」
「父上! 私を彼のもとへ返してください!」
「ならぬ。あれは怪物だ。いずれ国に害を成す」
「そんなことはありえません! 旦那様はとてもお優しく、人に寄り添ってくださります!」
「怪物が姫を嫁にと望む。その恐ろしいことよ」
父王は険しい表情をし、鋭い眼差しでルーナを見た。