フェンリルに捧ぐ愛の契り 〜旦那さまを溺愛してもいいのは私だけです! 耳を食みたいのです!〜

***

寒さに肌がしっとりする。

夜目にもわかるほどに息は白く、ルーナは見張りの目をかいくぐって走っていた。

(もうっ……出口はまだなの!?)

部屋から出た後も正門までの道は長い。

敷地内でも馬車を走らせているのだからそうとうに広いことがわかる。

ところどころに設置された外灯を頼りに敷地の外へ出る方法をさぐっていく。

(やっと門が見えたわ)

青銅の柵で出来た門。

そこには騎士が見張っており、ほかに抜け出せる道がないかと見渡すが何もない。

どう隙をつこうかと考えていると、足元に落ちていた木の枝を踏んでしまう。

(しまっーー!?)
「誰だ!?」

ランタンで顔を照らされる。

騎士はルーナが抜け出したことに気づき、血相をかえて捕らえようと手を伸ばしてきた。

こうなれば振り切るしかないとルーナは走り出し、門の外へと出る。

小人の用意してくれたブーツは軽く、以前のものよりずっと走りやすい。

だが普段からたくましく身体を鍛える騎士たちには敵わず、ついにルーナは手首を掴まれてしまった。


「やだ! 離して!!」

この手は非力だ。

こんなにもリアムに会いたいと願うのに抵抗してもねじ伏せられてしまう。

ただお互いに愛し合っていたいだけなのに、現実は甘くない。

にじむ視界のなかに白い粉雪を見た。

「……雪?」

周りを囲んでいた騎士の一人が空をみあげて呟いた。

途端に道を照らしていた月明かりを奪い、闇色が濃くなり空を覆った。
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