結婚したくない二人の話~完璧イケオジエリートは、実は独占欲強めなケダモノでした~

 つい派手なイケメンに目が行きがちだったが、このおじさんもかっこいい。この二人が仲良く新幹線に並んで乗っていたのかなと想像すると少しおかしくなって笑った。

「少しは落ち着きました?」
「ありがとうございました。もう大丈夫なので、私も帰ります」
「未開封なので、よかったら」

 そうわざわざ付け加えて、自分の鞄から小さな水のペットボトルを私に手渡してくれた。遠慮したが、にこにこ笑いながらも一向に引かないので、ありがたく頂戴する。優しそうに見えてわりと頑固。

 こんなとき、助けてくれた人と恋に落ちたりするのだろうけど、相手が既婚者の場合、可能性はゼロ。不倫ダメ、絶対。
 でも、形の良い唇が優しく微笑をたたえるのを見て、結婚するならこんな人にすべきだったなと思ったのは事実だ。


 新幹線改札口から中央線のホームへ移動して電車を待っている間、名前くらい聞いておけば良かったと後悔した。出張帰りと言っていたから、普段の通勤経路とは違うのだろう。多分、もう会うこともない。

 近くにいないかなと見回したが、そんな都合のいい偶然が何度もあるはずはなく、勿論彼らは見当たらなかった。
 家に帰りたくないなと思いつつ、私はいつものように中央快速に乗りこんだ。



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