結婚したくない二人の話~完璧イケオジエリートは、実は独占欲強めなケダモノでした~
鏡を見るのをやめて俯くと、全身に風を感じた。次の電車が入線したのだ。大勢の人たちが降りていき、待機していた大勢の人が乗り込んでいく。
家路を急ぐのか、これから出勤なのか、ホームでぼうと佇んでいる私に目を向ける人は一人もいなかった。
もしかして、真臣から連絡が来るのではないか、と握りしめていた携帯電話が振動した。しかし、届いたメッセージは近隣のお天気情報だけ。もうすぐ雨雲が来るらしい。
雨女の私は、雨が降るたびに真臣から「和咲のせいだよ」とからかわれていたことを思い出す。
念願かなって一緒に暮らし始めて、とても楽しかったのに。
とにかく、まずは家探し。現在、二人で暮らしているマンションは、当然出て行かなくてはならない。
「やっぱり新宿駅の近くがいいかなあ……通勤に便利だから」
私の独り言は中央特快の発車する音にかき消されて、自分の耳にも届かなかった。
過密なダイヤグラムで動く新宿駅の風景の中で、私は独りぼっちなのだなと再認識した。こんなにたくさんの人がいるのに。
でも大丈夫。前に進める。生きていける。もともと私は一人だもの。
とりあえず、どこかで少し時間を潰そうかと一歩踏み出した瞬間、私の真横に人の気配を感じた。邪魔にならないよう避けようと線路側へ移動したら、その人から急に腕を引かれたので振り返った。
「だめです」
私に向かって真剣な表情で制止の言葉を放ったのは、さっき東京駅で倒れそうな私を支えてくれたおじさんだった。低い声に強い意思を感じる。私の右腕は痛くないけど容易には振り払えない力で掴まれていた。彼は私の腕を掴んだまま、言い聞かせるように説明を始めた。