結婚したくない二人の話~完璧イケオジエリートは、実は独占欲強めなケダモノでした~
「新宿駅は、ほとんどの電車が停車するので減速して入線してきます。だから飛びこんでも怪我ですむかもしれない」
特急電車も必ず停車するのが新宿駅だ。止まらずに通過するのは、貨物列車か回送列車くらいだと思う。それは私も承知していたので、素直にうなずいた。
「ええ、そうですね」
「それに、ここはターミナルなので、人身事故があった場合、ダイヤがかなり乱れてしまい、損害賠償額は相当な金額になります」
「……それを言われると躊躇いますよね」
このおじさんは、なぜこんな怖い話をしているのだろうか、と疑問に思いつつも賛同した。私の返事を聞いて、彼は少し安心したような口調になった。
「振られても自暴自棄になってはだめですよ。あなたはまだ若い」
おじさんは、私の腕を掴んだまま、熱情を込めて私の瞳を見つめて真剣に語りかけてくる。気おされそうになったが、誤解を解くために提案した。
「……おじさん、ちょっと……あっちへ移動しましょう」
「考え直してくれてよかったです」
背の高いおじさんが女である私の腕をずっと掴んでいるから、私たちは周囲の耳目を集めて初めていた。私が先導してあまり人の通らない階段下へと移動した。
歩いている間、彼はしっかりと私の腕を掴んだままだったし、なんなら線路が視界に入らないように立つので、さっきよりも距離が近い。身長差があるから歩幅も違うけど、私の歩調に合わせてくれている。きっと、東京駅での第一印象通り、優しい人なんだろうなと思う。