結婚したくない二人の話~完璧イケオジエリートは、実は独占欲強めなケダモノでした~
「心配してくださって、ありがとうございます。何度もご心配をおかけしてすみません。……私は戸樫和咲と申します。平和の『和』に花が『咲』く、で『かずさ』です。お名前を伺ってもいいですか?」
ずっとおじさん呼ばわりするも失礼だなと思って名前を尋ねたが、相手が少し戸惑っている。聞いちゃだめだったかな。
「私の名前は漢字の説明がしづらいので、これを」
そう言いながら差し出されたのは名刺だった。肩書は、某省統計局の某課長。
真面目でお堅そうだと思っていたら、お堅いオブお堅い、公僕だ。
「八木沢東梧といいます。東にアオギリで『とうご』です」
「なるほど、アオギリはカタカナで書くことが多いから、漢字はなかなかピンと来ないですよね。街路樹に多いから、みんな見ているはずなのに」
「そうです。……戸樫さんはアオギリをご存知なんですね」
八木沢さんはそう言って、私に向かって穏やかに優しく笑った。
アオギリは火に強く、火事が起きた場合に延焼を防いでくれるので、よく公園や街路に植えられている。広島で被爆して枯れ木同然になったが、翌春に再び新芽をつけたアオギリがあり、火に負けなかったその木は、復興の象徴として平和記念公園に移植されたそうだ。
短期間で大きく育つ高木であり、葉も大きいから、背が高くて手が大きい八木沢さんの名前にアオギリがあるのはぴったりだなと思った。
ついでに聞くと、一緒にいた同僚の方は「槙木さん」だそうだ。