結婚したくない二人の話~完璧イケオジエリートは、実は独占欲強めなケダモノでした~
「少しは元気になりました?」
「はい。ありがとうございます。……すみません、お引きとめして。私は大丈夫なので、早く帰ってください。お子さん待ってるでしょう?」
つい立ち話をしてしまったが、誤解がとけたのにいつまでも引き留めてはいけないと思ってそう言った。
槙木さんも家に帰ったし、彼もきっと早く帰りたいだろう。でも、八木沢さんは困ったように笑って予想外の返事をした。
「独身なので、残念ながら帰っても一人ですよ。結婚の予定もありません」
「え? でもさっき、お子さんの話をしてませんでした?」
運動会や習い事の話など、会話の断片を聞いて勝手に八木沢さんも既婚者だと思い込んでいたが、あれは全部槙木さんのご家庭の話だった。
「すみません、失礼なことを!」
「いいえ、よく言われます。気にしないでください。とりあえず、移動しましょうか。家の近くまで送りますよ」
家、と言われて現実に戻った。
下北沢が最寄り駅なので、私はいつも新宿駅でJRから私鉄に乗り換える。彼氏は実家に帰るといっていたから、同棲しているマンションには誰もいないだろう。でも、やっぱり気持ちが追いつかない。