結婚したくない二人の話~完璧イケオジエリートは、実は独占欲強めなケダモノでした~

「あの……まだ家には帰りたくないので、どこかで休みます。ありがとうございました」
「そうですか。分かりました」

 しかし、八木沢さんは口をつぐんだまま、その場から立ち去ろうとしなかった。

 私がすぐに帰らないと言ったからか、また心配そうな表情になっている。

「……僕がいなくなったら、やっぱり気がかわって、線路に……」
「しません、誤解です! 悲しいよりも、むしろ私は怒ってます! 彼氏のこと、殴ればよかったと思ってます!」

 八木沢さんがびっくりした顔をしていたから、両手を握りしめてむきになって言い返したのを後悔した。子供っぽいと思われたかも。恥ずかしくて、耳が熱い。

 でも彼が面白そうに笑ったのを見て、そのとき初めて、これまで見せなかった素を見た気がした。

「そうみたいですね。元気でよかった」
「なので、ごはんもちゃんと食べます。ひとりはちょっと寂しいですが……」

 こんなとき、私にも実家があって、家族がいたら気が紛れただろう。何気ない私の言葉に八木沢さんが笑って答えた。

「じゃあ、こんなおじさんで良ければ、ご一緒させてもらえませんか? 僕もどこかで食べてから帰ろうかと思っていたんです」

 新宿駅東南口の近くにある割烹料理屋へ行くことを提案されたので、二つ返事した。
 行ってみたいと思っていたお店だったので、その提案は素直に嬉しかった。それに帰りたくないとは言ったけれど、一人でどう過ごそうか考えていなかったから。



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