結婚したくない二人の話~完璧イケオジエリートは、実は独占欲強めなケダモノでした~

「私が相続人のはずだったんですが……ある日突然、売れたって聞かされました」

「その、売却したお金は?」

「育ててもらって、その分親戚に迷惑かけたから、という理由で……一円ももらってない、です……」

 身内の揉め事は恥をさらしているようで嫌だったから、誰にも話したことはなかった。
 美大に行きたかったけれど、準備の時間も学費も足りずに諦めた。
 国立大学の教育学部で美術を専攻したので、美術の先生になりたいと思ったが、圧倒的に求人がなく、余裕のない私は生活のために派遣社員になった。

「じゃあ、本当はもっとやりたいことがあるのでは?」
「もしかしたら他の道があったのかもしれないですが、私にはこれが精一杯です」

 笑って話したが、八木沢さんが考え込むような表情になったので、こんな話ばかりで申し訳ないと謝った。

 八木沢さんが何か言う前に、自分から話題を変えた。

「そういえば、楽しみにしていたブライダルエステは、せっかくだから行こうと思ってます! でも、式場にキャンセルの連絡をするのは気が重いです。担当のプランナーさんが一生懸命な良い方だったので……」

「……うん、辛いですね」

 その一言に情感がこもっている気がして、この人は私と同じような体験をしたんじゃないかと思った。だから放っておけないのかと。……勝手な想像だけれど。


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