結婚したくない二人の話~完璧イケオジエリートは、実は独占欲強めなケダモノでした~
「これも有田焼かな? 可愛い!」
「……戸樫さん、それが何かわかるんですか?」
「あっ、すみません。興奮してしまいました。実は私の趣味はお料理で、その延長で器も好きなんです。さっきのお皿は染付や青花と呼ばれていて、中国産だと景徳鎮が有名なので、聞いたことあるかなと思います」
「教科書に出てきますね、景徳鎮」
中国では青花といい、白に酸化コバルトの顔料で絵付けしたもの。日本では染付と呼ばれ、有田焼が有名だ。箱から察するに古いもののようだが、欠けもなく綺麗なまま保管されていた。日用品ではなく美術品なのだろう。つい、何を盛り付けようかなと考えたことを反省した。
「江戸時代に九州に伝わって、それから盛んに作られたそうです。骨董品としては流通量も多いと思います。でも、この大きなお皿は特に見事ですね。絵も綺麗だし、色も素敵」
「気に入ったものがあったら、普段のお食事で使ってもいいですよ」
「えっ、いいんですか?」
それはとても嬉しい。
中学生の頃に祖父が亡くなったあと、祖母は落ち込み病気がちになった。ほとんどの家事を引き受けていた中で、器を考えながらお料理を盛り付けるのは私のささやかな楽しみだった。
「戸樫さんがさきほど『染付』と呼んでいた、そのお皿も使ってください」
「割ったら怖いですよ……」
「僕には価値がわからないので、ただのお皿です」
なお、あとでリストを見せてもらったら、「ただのお皿」の当時の鑑定額は八十万円だった。