結婚したくない二人の話~完璧イケオジエリートは、実は独占欲強めなケダモノでした~
不夜城新宿_1
二人で住んでいる下北沢のマンションは、真臣の名義で借りている。三月末に入居してまだ三か月だから、解約するなら違約金の支払いが必要だ。話し合う前に引っ越し先を決めたのは自分だから、そこは全額支払おうと思っていた。
このマンションは新築で、家賃もそれなりに高い。違約金は家賃ひと月分だから貯蓄の少ない私にとっては痛い出費になる。もともと贅沢はしていないが、多少切り詰めないといけない。
仕方なく彼の出張の荷作りをしたあと、冷蔵庫には食材があったので、消費するためにも夕飯を作った。
いつものようにキッチンに立っていると、金曜日の出来事は空想か夢だったんじゃないかと思えてきた。
彼女は妊娠なんかしてなくて、全部嘘……嘘だったらいいのに。そう思って、真臣も彼女からの連絡を無視したのだろうか。
定刻で帰る私のほうが帰宅が早いので、いつも真臣が帰ってくるまでの時間で、掃除や洗濯、料理も全部すませている。
もう何年も家事をしているから慣れているだけだが彼はいつも「僕はいいお嫁さんをもらうな~」と喜んでいた。
それは決して苦じゃなかった。短かったけど、二人の生活は楽しかった。
「ただいま。この段ボール……なに?」
「おかえり。引っ越しの準備だよ、もちろん私の」
帰宅した彼が、驚いた顔をしている。
直接会話するのは苦痛だ。でも、彼は本気で別れるつもりがない様子だから、話し合いをしなければならない。私が先に食事したことを伝えると、彼が言った。
「まだ怒ってる? この前は邪魔が入ってちゃんと話せなかったけど、和咲は誤解してるんだよ」
八木沢さんと槙木さんを「邪魔」と言ったことに若干いらだちを覚えた。彼らは一人で困っていた私を助けてくれたのに。真臣は私が倒れそうになっても手を差し伸べもしなかったくせに。