結婚したくない二人の話~完璧イケオジエリートは、実は独占欲強めなケダモノでした~
その日は、出勤してすぐに、「会議室を少しだけ使わせてもらえないか」と上司にお願いに行った。
普段はフロアの隅の打ち合わせスペースを使用するので、彼は何事かと不思議そうにしていたが、破談の報告と謝罪を始めると、口を開けてぽかんとした表情になり、話の途中で「ドア閉めた方がいいか?」と聞かれた。
「いずれ皆さんにもわかることですし、大丈夫です」
「そうか。そんな雰囲気は一切なかったから驚いた」
「色々と想定外のことが起きまして……。詳しい説明はご容赦ください。諸々の手続きは来週するつもりですが、同居も解消しています」
会社に迷惑をかけるわけでもないが、周囲はかなり気まずいだろう。苦言を呈されるかなと思っていたが、私の予想とは真逆のことを言われた。
「辛いだろうが、まあ人生色々だからなあ。ところで、こんなタイミングで言うもんじゃないかもしれないが……戸樫さん、正社員になる気はある?」
「……私が、ですか?」
「ここに配属されてもう二年だし、仕事も安心して任せられるから。以前、上申したんだが『結婚したら辞めるんじゃないの?』って上に言われて頓挫してたんだよ。ちょっと真剣に考えてみて」
正社員になって生活が安定するのは正直ありがたい。でも、真臣とずっと同じ職場になるのかと思うと、それもまた辛い。
どうしていいかわからなくて、上司が会議室から出て行っても、しばらくその場から動けなかった。