結婚したくない二人の話~完璧イケオジエリートは、実は独占欲強めなケダモノでした~

 帰宅後、私はマンションの正面に立って最上階を見上げた。窓に灯りは点いておらず、八木沢さんはまだ帰宅していないようで、それを少し寂しく感じた。

 ここは、総戸数五十の中規模マンション。一階は管理人室や駐輪場などがあるので、101号室しかないが、二階には六部屋ある。全戸にごあいさつするのは到底無理なので、「二階の方にだけお伺いすればいいかな」などと考えながらエントランスの中に入った。


 転居の手続きをしないといけないから、来週どこかで半日お休みをもらおう。健康診断の再検査も、同じ日にすればいい。
 予約を取るのが面倒。真臣のせいで引っ越すことになったのに、手続きで休まなければいけないのも面倒。

 悲しくないのは忙しいからなのか、それとも嘆いてもどうしようもないから諦めているのか、自分でもよくわからない。

 東京駅で対峙していたとき、真臣から「冷たい」と言われたけど、その通りかもしれない。彼からの連絡は、すべて無視し続けている。


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