結婚したくない二人の話~完璧イケオジエリートは、実は独占欲強めなケダモノでした~
両親を亡くした時、疑いもなくずっと続くと思っていた平凡な日常は突然断ち切られてしまった。幼い私は、死を理解できず、悲しいよりも寂しかった。
両親は駆け落ち同然で結婚したらしく、母方の祖父母に会ったのはお通夜が初めてだった。
引き取られた当初は、居場所がなくて辛かった。思春期を家事と介護に費やして、恋愛なんかする暇がなかった。
真臣に出会って、生まれて初めて人並みに「女の子」になれた気がした。
「八木沢さん、も……失恋、したこと、ありますか?」
「ありますよ」
「泣きました、か?」
「泣きましたよ」
「悲しいのか、悔しい……のか、わからない、けど、勝手に涙がでます」
「泣いていいと思います」
「とまらない、です」
それ以上は嗚咽でしゃべれなくて、ぼたぼた涙が落ちていくのも止めることができなかった。ハンカチを差し出されても、どうしていいかわからなかった。使ったら汚してしまう。でも涙で頬が痛い。
いいのかな、と迷いつつも受け取って、結局そのハンカチをぐしゃぐしゃにしてしまった……。
うつむいた私の髪を、八木沢さんの大きな手が撫でてくれる。そうして控えめに前髪を撫でられていると、だんだん落ち着いてきた。そして、はっとした。
人前でこんなに泣いたのは初めてだ。子供みたいでみっともないから、呆れられたに違いない。
「わ、わわ、すみません! 綺麗なハンカチを汚して! ティッシュ! ティッシュどこ! ハンカチは洗って返します!」
「よろしくお願いします」
雑貨と書かれた段ボール箱を開けながら私が謝ると、八木沢さんは何事もなかったかのように笑った。
八木沢さんが優しく笑ってくれると、私の心が軽くなる。不思議。