結婚したくない二人の話~完璧イケオジエリートは、実は独占欲強めなケダモノでした~

 今ならまだエントランスにいるかもしれない。

 そう思って部屋を出て、エレベーターホールの角を曲がると、まだメールボックスの前に彼がいるのが見えた。

 メールボックスの下には大きめのゴミ箱が設置してある。ポスティングされた広告などを放置する人がいるから、それらを捨てるために置いてあるそうだ。


 八木沢さんがそのゴミ箱に手紙を入れようとして、何か呟き、結局躊躇って捨てなかったのを見てしまった。

 見てはいけなかった気がしたから、何も気づいていないふりをして声を掛けて、ハンカチを返して部屋に戻った。

 八木沢さんのあんな表情みたことない。怒っているような泣いているような、辛そうに歪んだ顔。

 あのとき呟いたのは差出人の名前なのだろうか。「サキ」って誰だろう。

 なんで私はこんなに動揺しているんだろう。胸がざわざわする。




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