結婚したくない二人の話~完璧イケオジエリートは、実は独占欲強めなケダモノでした~

大家と店子、だったはず_1


 背中の中程まであった長い髪を、三十センチくらい切ったので頭が軽い。心も軽くなった気がする。ついでに体重も軽くなったのでは、と勇んで体重計に乗ってみたが、そこは変わっていなかった。残念。

 明朝、早めに出勤しようと思い、夜のうちにゴミも出しておくことにした。
 敷地内に二十四時間利用可能なゴミ集積所があるのはとてもありがたい。しかも、管理人さんがこまめに掃除しているのか汚れもなく綺麗だ。本当に良いマンションを紹介してもらったなぁと足取り軽く部屋に戻ろうとしたら、帰宅した大家・八木沢さんに遭遇した。

「あっ、大家さん、おかえりなさい! お疲れ様です!」

 元気に挨拶をしたら、一瞬の沈黙ののち八木沢さんが笑った。

「ただいま戻りました。大家さんはやめてください」
「じゃあ、オーナー?」

「それもやめてください」
「じゃあ、八木沢さん」

 私が名を呼ぶと、穏やかに笑って「はい」と返事をしてくれたので嬉しくなる。「戸樫さんが元気そうで安心しました」と笑いつつ、八木沢さんがメールボックスを開いたので、心臓がどきりとした。昨日、八木沢さんが捨てようとしていた手紙のことを思い出してしまう。


< 53 / 59 >

この作品をシェア

pagetop