結婚したくない二人の話~完璧イケオジエリートは、実は独占欲強めなケダモノでした~
二基あるエレベーターはどちらも別の階で使用中だった。エレベーターを待つ、そのほんの少しの猶予が、私にとっては嬉しかった。
「病院に行くと言ってましたが、検査結果はいつ出るんですか?」
「今日のうちに結果が出て、貧血と診断されました。お薬もらいました」
「そうですか。この前みたいに駅で倒れそうになったらすぐ休んでくださいね」
「気をつけます。お医者様にも言われました。駅のホームで倒れてしまい、電車と接触して亡くなった事例とか……」
エレベーター前で横に並んで話していると、ふと視線を感じたので顔をあげた。八木沢さんが真剣な顔で見下ろしていた。地味に顔がいいな。至近距離で見つめられるとちょっとドキドキする。
何か話したいことでもあるのかと待っていると、彼が「あ!」と小さく叫んだ。
「髪切りました?」
「えっ……はい、切りました! 区役所のあと時間があったので」
「似合ってる。可愛いですよ」
エレベーターが到着したので、八木沢さんは「では、おやすみなさい」と挨拶して最上階へ行ってしまった。
八木沢さんに可愛いって言われた……?
お世辞とわかっていても、ちょっと……かなり嬉しいかもしれない。ニヤニヤしながら部屋に戻って鏡を見て、(いやいや調子に乗ってはいけないな)と反省した。