結婚したくない二人の話~完璧イケオジエリートは、実は独占欲強めなケダモノでした~
引っ越しからひと月。
真臣からの連絡は、『もう一か月経ったけど、頭冷えた?』というトンチキなメッセージを最後にぱったりとやんだ。
職場では必要最低限の事務的な会話以外、真臣とは一切話をしていなかったし、顔を見ても特に心が乱されるようなこともなくなった。周囲の認識も「終わったこと」にかわり、面白がる人も減った。
新生活にも慣れたし、やっと落ち着いて仕事ができる。そう思っていたある日の終業後、帰ろうとしていた私は、会社の廊下で仲の良い同僚に捕まった。
「ちょっと、和咲さん! これ見て!」
怒った口調でそう言ったのは、冬崎永遠子。真臣の同期だから私よりひとつ年下。真臣を通じて仲良くなった、私の数少ない友人のひとりだ。
彼女に見せられたのは結婚式の招待状で、新郎新婦は柴田真臣と武内七瀬である。私と真臣が予定していた式場で日時も同じ。彼は式場のキャンセルをせず、花嫁を取り替えて結婚式を挙げるらしい。
見たくないのに有無を言わさず見せられたので、永遠子に文句を言った。
「永遠ちゃん、嫌がらせやめて」
「違う、二人の新居の住所見て」
「……これって」
「だよね!?」
そこに記載されていたのは、私と真臣が暮らしていたマンションの住所だった。永遠子が聞いた話だと、新婦である武内さんは約二週間前に福岡支店を辞めたらしい。