結婚したくない二人の話~完璧イケオジエリートは、実は独占欲強めなケダモノでした~
多すぎて一人で食べきれないので、201号室の馬木さんご夫婦を訪ねることにした。
馬木さんは入居後のご挨拶にお伺いしたあと、エントランスで会うたびに雑談をして、そのうち家に招かれて仲良くなり、歳の離れた友人になった方だ。
旦那さんは職場で倒れて足が不自由になり、それ以降車椅子生活になったそう。ご挨拶に行ったときも部屋の奥から車椅子で挨拶に出てきてくださった。
郊外の一軒家に住んでいたが、奥さんは車の運転が出来ず不便になったため、このマンションの一室を購入したらしい。
晴れた日は、よくご夫婦一緒に散歩に出かけているし、土曜日はデイサービスの迎えが来て、旦那さんだけが出かけているのも何度か見かけている。
土曜日は、介護から解放されてほっとできる唯一の時間だが、独りで過ごすのも寂しいそうで、「お願いだから遊びに来て!」と言われてお邪魔した。ほぼ一方的に馬木さんがしゃべるのを聞いているだけだが、私にも経験のあることなので、「わかりますー!」と何度も頷いていた。
「死にたいって言われると困るのよね」
「うんうん」
「老いてもそばにいたいから、こうして苦労してでも一緒に暮らしてるのに。夜は不安になるのか、もうお迎えが来て欲しいってよく言われる。でも『そんなこと言わないで長生きして!』とも言えないのよね」
「わ、わかります……」
そして、馬木さんは「聞いてくれてありがとう、また頑張れるわ」と、ベランダで育てている野菜や花をくれる。
その馬木さん宅に唐揚げをお裾分けに行ったが、それでも余ってしまった。
「夕飯を作りすぎたので助けてください」
まだ仕事中であろう八木沢さんにそう連絡してみると、『喜んでお相伴にあずかります』との返事だったのでほっとした。