結婚したくない二人の話~完璧イケオジエリートは、実は独占欲強めなケダモノでした~
午後十一時、八木沢さんが帰宅した。
101号室の玄関先で、お皿(鑑定額二万円)に盛ってラップをかけた唐揚げを手渡しながら質問した。
「いつも帰りはこれくらいの時間ですか?」
「もう少し遅くなることもありますが、部署がかわってからは今くらいですね」
「……ということは、部署によっては……」
「言えません。内緒です」
八木沢さんが悪戯な表情で笑うのを見て心臓が跳ねた。普段は人畜無害そうにしているくせに、時折色気がある。
「綺麗に盛り付けてくださってありがとうございます。眠っていた器も愛でてもらって喜んでると思いますよ。僕には使おうという発想すらなかったので」
「遠慮無く使わせて頂いてます」
本当は遠慮しつつだけど。
おやすみなさいと挨拶をしてドアを閉めようとしたときに、真臣からの手紙を放置していたのを忘れて靴箱に手をついてしまった。積み上げていた手紙のバランスが崩れて落としてしまい、廊下にまで滑り出た。
「すみません! 元彼から、手紙が届いて……怖くて玄関に置いてました……」
「これ全部です?」
八木沢さんが絶句したあと「確かに怖い」と呟いていた。