結婚したくない二人の話~完璧イケオジエリートは、実は独占欲強めなケダモノでした~

 一回だけ! とやたら強調していたが、想像すると吐きそうになった。

 私が荷作りの手伝いに行けばよかった。年度末で忙しいから来なくていいよと言ってくれたけど、行けばよかった。私がいたら、きっとそんなことにはならなかった。血の気が引いていくようで寒気がする。

 ああ、そうだ。私ちょっと貧血気味だから、今の状況ってよくないかも。そういえば春の健康診断で、去年は「経過観察」だったのに、今年は「要再検査」だった。まだ病院の予約してないや。自分が受けるわけじゃないのに「血液検査の注射針、怖いよな」と真臣が怯えて、それを見て私は笑っていた。今朝までは幸せだったな。


「彼女が『妊娠した』って伝えたら、それから連絡を無視したのは本当?」

「え? いや、無視したわけじゃないよ。昼間は仕事で忙しいし、夜は家に帰ったら和咲もいるし、ちょっと連絡とりづらくて……」

「本当なんだね」

 真臣は面倒事から逃げがちで、嫌なことを後回しにする癖がある。武内さんがそんなことまで私に暴露していたと思ってなかったようで、真臣がうろたえて慌てだした。
 彼女はそんな真臣を見上げると、落ち着いた声で言った。

「連絡できなかったのは、彼女さんのせい?」
「あ、うん。そう、そうだよ。ごめんね、七瀬さん」

「私のせい!?」

 彼女の誘導で簡単に私を悪者にした真臣に、麻痺していた感情がさすがに動いた。私、もっと怒っていいんじゃないかな。


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