結婚したくない二人の話~完璧イケオジエリートは、実は独占欲強めなケダモノでした~
「やっぱり、七瀬さんの言う通りなのか? 和咲は親もいなくて正社員じゃないから、お金のために僕と結婚したいのか?」
私の知らないところで、彼らはどんな会話をしていたのだろう。
私も真臣が好きだから将来を真剣に考えて、家族になりたいと思っていたのに。
こんな人たちと、もう会話したくない。ここから逃げたい。頭痛がさらに増す。
涙を見られたくなくてうつむいたら地面が揺れた。めまいがして、足に力が入らない。
倒れたくない、踏みとどまりたい。
支えが欲しくて、一瞬だけ顔を上げて真臣を見た私は、その隣にいる武内さんが笑っているのを見てしまった。
私が嘆いている姿が楽しいの?
でも真臣は、そんな武内さんを選んだ。もうどうでもいいやと思いかけた瞬間、誰かが横から腕を伸ばして、私の傾いだ体を力強く抱き留めてくれた。
自分とは全然違う、硬くて大きな男性の手のひらの感触。背中を支えられたおかげで、固い地面に倒れずにすんだらしい。支えてもらってありがたいけど、他人の体温を感じて、一瞬全身が強ばった。
驚いてゆっくり振り返った私の視界にまず飛び込んできたのは濃紺のネクタイ。結び目が丁寧だなあ、きっと几帳面なんだろうなあと思いながら視線をあげると、スーツを着た背の高い男性が、心配そうな表情で私を見つめていた。
脱力して重たいであろう私の体を難なく支えてくれている。
歳は四十代くらい。華やかさはなく、むしろ地味だけど、細面で整った顔立ち。無造作に分けただけの前髪が、少し眉にかかっている。その眉も瞳も優しげで、知らない人のはずなのになぜか安堵した。
「大丈夫ですか? 駅の医務室までお連れしましょうか?」
慌てて自分の足で立とうとしたが、全く力が入らない。仕方なく体を預けて、「ご迷惑をおかけしてすみません」と謝った。